芝居・舞台

2021/08/09

『ポーの一族』 宝塚 花組公演(2018年)

宝塚歌劇団の舞台って観たことがなくて、いちど観てみたいと思っていました。
そしたら、ふだんは有料のCATVチャンネル「タカラヅカ・スカイ・ステージ」が無料放送をする日がありまして、映像でとはいえ舞台にふれる機会が得られました。
『ベルサイユのばら』とか『ロミオとジュリエット』とか、いろいろな舞台中継があったのですが、話をよく知っていて個人的にも好きなものをということで、2018年に上演された『ポーの一族』を観ることにしたのですが、いまから思うとこれが失敗だったような気もします。

『ポーの一族』って、ユーロピアンな趣に満ちたゴシック・ロマンな作品だと思います。ヴィジュアル面では優雅さや華麗な感じを醸しつつ、背景にはじっとり湿った薄暗い悲しみが通奏低音のように鳴っている、中世ヨーロッパへの憧れやある種のコンプレックスを刺激するような作品です。

しかし宝塚歌劇団の『ポーの一族』からは、そうしたユーロピアンな趣が、ゴシック・ロマンな哀愁が、漂ってきません。エドガーが望まずにしてヴァンパネラになってしまったいきさつからアランとともに旅立つあたりまでを2時間半くらいで描いているので、物語り部分に深みや奥行きを出しにくいのはわかるけれど、それにしてもなんだか薄っぺらい話になっています。ヴィジュアル面は華やかで美しいけれど、ストーリーにおもしろみを感じられない。

そしてね、ともかく曲がね、ユーロピアンともゴシック・ロマンともほど遠い感じです。なんというか、昭和の歌謡曲臭がすごい。歌メロの端々に演歌のような旋律があります。それに輪をかけて残念なのが演奏です。演奏技術がではなく、アレンジが、もう本当に昭和のテレビの公開番組(「8時だよ!全員集合」とか)などで演奏されたときの歌謡曲みたい。金管楽器がぶかぶか鳴ってて、盛りあげるところで派手にシンバル叩いて、リズムは単調で、洗練とはほど遠いです。そこの盛りあげは金管ではなくストリングスで優雅にだろ、そこは金管ではなく木管で繊細にだろ、とか思ってしまうことが何度もあって、物語に感情移入しにくいったら。

ミュージカルで、曲や演奏の雰囲気が物語がもつイメージと大幅に違うのは、なかなかにきついです。

それに、宝塚だからしかたがないのですが、出演者が全員女性なので、歌声の幅が狭いです。もちろん男役さん、娘役さんで発声や音域などに違いはあるのですが、それでもやはりどれも「女性の歌声」です。みなが美しい声で、だみ声の人とか、妙にこぶしの入る歌声の人とかはいません。歌声や歌い方にあまり幅がないので、だんだん飽きてきちゃう。ミュージカルは、複数の男性や女性がさまざまな歌声をいろいろな表情をつけて聞かせてくれるところが自分にとっての魅力のひとつだったりするので、歌声に幅が感じられなかったのは残念です。

テレビで観る舞台中継では生のステージの持つ魅力が十分には伝わらないことは理解していますが、それにしても残念な印象が残る初宝塚でした。最初に観る作品は、ゴシック・ロマンな哀愁を纏う(はずの)『ポーの一族』ではなく、華やかさや華麗さを楽しむタイプのものを選べば良かったのかなと思います。



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2019/08/15

地球ゴージャス / HUMANITY THE MUSICAL〜モモタロウと愉快な仲間たち〜 (2006)

いちどは生で舞台を観てみたいと思っているのだけど、なかなかチケットがとれない地球ゴージャス。CATVでむかしの公演が放送されていたので、初めて観ました。
なんか、すごいな。歌もダンスも笑いもあって、最後は少し泣かせにくるという、観客を目いっぱい楽しませようというエンタテインメント精神たっぷりのステージでした。特に大人数での群舞やコーラスの場面などは、生で観ていたらかなりの迫力で楽しかっただろうな。いつかは生で観たいという気持ちがいっそう高まりました。
しかし、主演の唐沢寿明はいまも力強いアクションを見せる人だから、あれくらいのアクションはできて当然と思いましたが、岸谷五朗があんなにスピーディでスリリングなアクションができる役者だとは知りませんでした。テレビや映画では、あまりアクションシーンを見ない気がするのですが、舞台であれだけできるのに、なんかもったいない感じがします。
雉役の蘭香レアという人は、宝塚の男役だった方なんですね。鍛えられて引き締まった腹筋がすごくて、そこにばかり目が行ってしまいました。
そして、戸田恵子の歌のうまさにしびれました。高橋由美子もかわいらしかった。
大人数が登場する舞台作品はチケットが高額になりがちで、なかなか気軽に観にはいきにくいのだけど、大人数ならではの躍動感があって楽しいです。映像作品でも十分以上におもしろかったけど、やはり生のステージで観たかった。


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2018/12/24

メタルマクベス disc3 (IHI STAGE AROUND TOKYO)

客席がぐるぐる回る回転劇場「IHI STAGE AROUND TOKYO」で観てきました、『メタルマクベス disc3』。劇団☆新感線の舞台を観るのは初めてで、客席が回るというギミックたっぷりの逆円形劇場での部隊も初体験で、観る前の期待値はけっこう高かったのだけど、観終わったあとの印象は思ったよりもおもしろくなかったなでした。


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『メタルマクベス』というタイトルどおり、シェイクスピアの『マクベス』をベースにしたストーリーにヘヴィメタルを取り入れたロック・ミュージカルというかロック・オペラといった感じの作品です。それならそれで、もっとオーソドックスにロック・オペラにしてもらったほうがよかったなというのが感想です。

物語の舞台をデストピア感漂う西暦2218年という近未来に設定したのは、それはそれでありだと思います。しかし、それとは別に、1980年代にアルバムを1枚だけリリースして消えた「メタルマクベス」というヘヴィメタルバンドの栄枯盛衰?をところどころに挟み込み、そのメンバーたちを2218年の登場人物の前世として、バンド内の人間関係などが2218年の登場人物たちの人間関係などにも影響を及ぼすというか、ひとりの人物のなかで前世と現生が時空を超えて共鳴しあうような設定は、話をむだにややこしくするだけで、やりすぎだったと思います。

また、宮藤官九郎の作品だからしかたないのですが、あちらこちらに細かく「笑うパート」を入れ込んできていて、その多くがまったく笑えなかったのもきつかった。宮藤官九郎作品は、はまれるときはおもしろいのですが、はまれないときは苦痛のほうが大きくなる傾向があり、『メタルマクベス』は残念ながら、自分にははまれないほうの作品だったようです。「笑い」の質や方向性が内輪受けに近い。メインとなる2218年の世界での、人物や国などの名称が、ことごとくエレキギターのメーカー名やフレットボードの素材の名前などになっているのも、フェンダーとギブソンがESPに滅ぼされるとか、最後はグレコが仇をとるとか、エレキギターのことを多少なりとも知っている人には物語とは別におもしろみを感じたりはするものの、楽器に詳しくない同行者にはまったくぴんと来なかったようです。

劇中で使われている曲も、ところどころでURIAH HEEPぽかったり聖飢魔Ⅱに似せていたり歌詞が沢田研二の曲のパロディ風だったりと、まぁそれなりに悪くはないのだけど、あとあとまで印象に残るような名曲はありませんでした。歌詞がパロディソングみたいなものが多いのも宮藤官九郎作品だからしかたがないのでしょうが、もっと高揚感のある歌い上げ系の曲があればよかったと思います。長澤まさみにも、もっとロングトーンで胸が熱くなるようなヴォーカルを聞かせるようなメロディの曲を歌ってほしかった。

そうしたもろもろのことも含めて、近未来のデストピアを舞台に置き換えたもっとオーソドックスなロック・ミュージカルで観たかったという印象が残りました。

そして、もうひとつの期待だった回転劇場も、非常に期待外れでした。非常に広角のスクリーンは独特の臨場感があってよかったし(むかし東京ディズニーランドにあった「ビジョナリアム」を思い出しました)、舞台が暗転するかわりに客席が回転するしくみも通常とは違う舞台効果を演出できるという点で悪くないです。ただ、座席のつくりがだめすぎる。最近できた新しい劇場なのに、まるで昭和のころにつくられた劇場のように座席の傾斜が小さく、足元も非常に狭くて前の席との距離が近く、結果として、前の席および2列前の席に座る人の頭で舞台の中央がほぼ見えません。普通に座っていると舞台が見えないために前に乗り出すようにして見る人もいて、そうなると、その後ろに座る人たちはいっそう舞台が見えなくなり、しかたがないからその人も前に乗り出すという悪循環。設計に欠陥があるとしか言えません。

そんなわけで、けっこう残念な感じの『メタルマクベス disc3』でした。


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2018/09/02

『出口なし』 (新国立劇場 小劇場)


フランスのサルトルの作品だそうです。主要登場人物は男性1人+女性2人の3人だけで、約80分ほどのコンパクトな芝居でした。演じるのは段田安則、大竹しのぶ、多部未華子。段田さんと多部ちゃんは以前にも舞台を観たことがあるけれど、大竹さんの生舞台は初めてで、それがいちばんの楽しみでした。

ストーリー的には、死んで地獄に落ちた3人が1つの部屋に閉じ込められ、おたがいに批判しあい傷つけあい馬鹿にしあい続けるといったような救いのない感じの話でしたが、そんななかにもところどころ人間の愚かしさにクスッと笑えるところもあったりして、上演時間が短いこともあり、最後まで飽きずに観られました。

楽しみにしていた大竹さんの芝居は、これまでに観てきた映画などから期待していたものと比べるとおとなしめというか、もっと迫力のある芝居もできるだろうにと感じる部分もありましたが、イネスという役のいやらしさはさすがの表現力で演じており、ときどき本当に憎たらしいおばさんに見えるところがさすがでした。

多部ちゃんが演じるエステルという役は、生前の所業が3人のなかでいちばん悪いと思うのだが、多部ちゃんが演じるとどうしても「いいひと」感が出てしまうように思います。テレビドラマの『ドS刑事』でも、ドSのはずなのに優しさが垣間見えていたし。エステルには、天真爛漫な美しさと闇があるといいと思うのだけど、多部ちゃんに「悪」や「闇」は似合わないんだな、きっと。以前に観た舞台ではもっと魅力的な芝居をしていたので、今回はキャスティング的にミスマッチだったかなぁ感じます。あと、せりふの言い方や声の出し方にもう少し緩急があるとよかったと思います。

段田さんの舞台を観るのは2回目で、前に観た芝居でもなんかあんまりパッとしなくて、段田さんってもっとできる人だと思っていたのにという感想だったのだけど、今回も、前回よりかはよかったのだけど、やっぱりあんまりパッとしない感じでした。段田さんが演じるガルサンという役も、他のふたりに比べると「悪」の要素が希薄で、その罪で地獄に落とされちゃうのという感じだし(まぁ、時代背景が違うからでしょうが)。役もパッとしないし芝居もあんまりパッとしなくて、舞台人としての段田さんに対する興味が一段と下がった感じでした。


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2018/05/05

酒と涙とジキルとハイド (東京芸術劇場プレイハウス)


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三谷幸喜の作品は、映画やテレビドラマはいくつも見ているけれど、舞台を観るのは初めてな気がする。出演者は片岡愛之助、優香、藤井隆、迫田孝也の4人で、愛之助以外は舞台で観るのは初めて。迫田孝也という役者さんのことはぜんぜん知らないのだけど、調べてみたらいろんなドラマに脇役で出ているみたいで、自分も何度かテレビで見ているようだ。


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ジキル博士の家の中だけで物語が進行する、三谷幸喜が得意とするワンシチュエーション・コメディで、こういう作品は演者の技量が高く、演出のテンポがよくないと、なかなか厳しいものになったりするのだけど、本職が歌舞伎役者の愛之助はもちろん、藤井隆も吉本新喜劇をはじめNODA・MAPにもときどき出ていて舞台慣れしているし、それほど舞台経験がないと思われる優香も、志村けんのところでの修業?が役に立っているのか、コメディエンヌをしっかりと演じきっていた。初めて見る迫田孝也も、もともと舞台経験が豊富なようで安心して観ていられたというか、おいしいところは基本的にこの人がみんな持っていった気がする。

しかし優香、顔ちっさいな。それに、もうすぐ38歳になるらしいが、まだまだかわいらしい。二の腕はぷるぷるだったけどな。

もったいつけず、思わせぶりにせず、なんとなく「いい話」ふうに着地させることもなく、コメディ作品に徹して最後までばかばかしい話になっているところが非常によかった。くだらないことをしっかりとやりきっているところが好感触。おもしろかった。

ちなみにこの舞台はオリジナルキャストによる再演で、初演時のものはDVDが出ている。ただなぁ、こういうばかばかしいコメディ作品は舞台で生で観るからおもしろいのであって、DVDで同じおもしろさを感じられるかは疑問ではある。



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2017/07/17

FILL-IN~娘のバンドに親が出る~

後藤ひろひと大王の超ひさしぶり(7年ぶりらしい)の東京での舞台『FILL-IN~娘のバンドに親が出る~』を新宿の紀伊國屋ホールで観てきました。

これまでに何作か後藤ひろひと大王の舞台を観てきたけれど、今回は役者として乃木坂46の人が出てたり、吉本新喜劇の内場さんとか池乃めだかさんとかが出てたりするためか、お客さんのなかにこれまでの舞台ではあまり見かけなかったような方たちが混じってて、客層が幅広かった印象。あきらかに乃木坂のファンだと思われるお兄さんとたちかおじさんたち、大王の舞台をお楽しみいただけましたでしょうか。

物語は、テンポよく展開し、ところどころに笑いを挟み、いい塩梅で情にも訴え、緩急取り混ぜた安定のおもしろさ。大王の出番が少なめだったのがちょっと残念だったけど、内場さんとめだかさんの掛け合いはさすがで、スカシの間合いとかも素晴らしく、いいもの観たぁと素直に思える。ずっとむかしに出張営業を早く終わらせて難波花月で新喜劇を見たときのことを思い出した。

しかし内場さん、ドラムすごいな。56歳で初めてドラム叩いて半年の練習であれはすごいわ。2時間の芝居だけでもたいへんなのに普通に劇中でドラム3曲分くらい叩いてて、日によっては2ステージだし、体力すごいな。さすが、長く舞台に出続けてるだけあるわ。

劇中バンドの演奏もテープじゃなく、生演奏で、普通にマーシャルのアンプとかで音を出してて、迫力があった。リズムとかはちょっと甘かったけど、それでも生演奏ってやっぱりいいね。芝居と音楽の両方を生で楽しめて、おもしろい舞台でした。

次の後藤ひろひと作品は、9月末に『人間風車』を観にいく。大王は出ないけど、今回の上演用に脚本に少し手を加えたらしいので、楽しみ。


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2016/08/21

MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人 (2008年版)


CATVのLaLaTVで放送されていたので、ひさしぶりに観た。というか、映像版を観るのは初めてで、自分が観たのはPARCOでの舞台。あの頃はまだ、あまり舞台とかを観たことがなくて、出演している役者さんも山内圭哉さん、春風亭昇太さん、岡田浩暉さんしか知らなかったのだけど、あのじいさん、吉田鋼太郎さんだったんだ。それに中山祐一朗さんも、戸次重幸さんも出てるじゃん。これだけ芸達者な人たちが大挙して出てれば、そりゃおもしろいよね。

ストーリーも後藤ひろひと大王らしい、楽しくて、わかりやすい笑いどころたっぷりで、だけど切なくて哀しくて、奥行きのある機微に富んだ内容。その後、映画化もされたけれど、映画版よりもおもしろいな。

舞台芝居の映像化作品は、カット割りによっては臨場感がなくなっちゃうこともあるのだけど、この映像作品は舞台ならではの良さを生かしつつ、客席にいるときよりも役者さんの表情をよく見られる映像ならではの良さもあって、良い作品になっていると思う。


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2015/08/09

ウーマン・イン・ブラック@PARCO劇場

イギリスのゴシック・ホラー『ウーマン・イン・ブラック』を渋谷のPARCOで観てきました。出演は岡田将生さんと勝村政信さんの2人のみ(そのほかにも劇中に3回ほど、キャスティングに名前の出ない「黒衣の女」がちらっと登場しますが)。

この舞台を見るのは、実は3回目。2003年と2008年に、同じPARCOで観ています。ただ、そのときはキャスティングが違い、上川隆也さんと斎藤晴彦さんの2人芝居(プラス「黒衣の女」)でした。2003年に初めて観たときに、あまりに素晴らしくて、原作小説も買ってしまったし、1989年にイギリスで制作されたテレビ映画?もインターネットで探してみてしまったくらいです。2008年に同じキャストでの再演(実際は、上川さん&斎藤さんでは再々演です)が決まったときも、すぐにチケット取りました。

そのくらい気に入っていた芝居が7年ぶりにまたPARCOで上演されるというので、すごく楽しみな半面、キャスティングが岡田将生さんと勝村政信さんというのがちょっと心配で。斎藤さんの代わりに勝村さんはまぁ大丈夫でしょうが、上川さんの代わりに岡田さんというのは大丈夫なのか。

で、見終わった感想ですが、上川さんと斎藤さんってやっぱりすごくうまい役者さんだったんだなと。

岡田さんもよくがんばっていましたが、「すごくがんばってる」感がひしひしと感じられてしまうんですよね。本当に一生懸命にがんばってる。でも、上川さん演じるヤング・キップスと比べてしまうと、まだまだ演技の幅が狭いです。キャラの使い分けも、感情表現の振れ幅も、こじんまりしてる。

勝村さんは、さすがにキャリアのある役者さんだけあり、複数のキャラをしっかり演じ分けていました。ただ、勝村さんはテレビで見る「ちょっと頼りなげで、どことなく抜けたところのある人のよさそうなキャラ」の印象がどうしても強くて。勝村さんが演じる、この芝居に出てくる複数の人たちは、この物語の底にずっと横たわる、つらく悲しい経験をみんな一様に持っているのですが、その重みが、あまり勝村さんのイメージにマッチしない。特に御者のケクウィックは、斎藤さんの演じるケクウィックがあまりに秀逸だったこともあり、勝村さんもけっして悪くはないのだけど、ちょっと見劣りがしてしまう感じがしました。

あと、演出とか、以前と少し変わっているのでしょうか? 以前に観たときは2回とも、もっと想像力を刺激されました。少しの効果音と役者の演技だけで、ヴィジュアルとしては映し出されていないものがまるで実勢に見えるように感じられたシーンがいくつもありました。犬のスパイダーの登場シーンや、スパイダーが沼でおぼれかけるシーンなどは、走ってくる犬の姿や沼でもがく姿が見えるようでした。濃い霧の中で馬車が道をはずれ、乗っていた御者と子供もろとも沼に沈んでいくシーンも、それをイールマーシュ館の窓から見ていたジェネットと一緒に見ているような気になりました。ケクウィックとヤング・キップスが馬車で館に向かうシーンも、上川・斎藤版では、実際は大きな籠の上に並んで座っているだけですが、馬車に乗ってるようにしか見えなかった。

でも、今回はそういうことがほとんどなかった。それが残念でした。なんか「黒衣の女」も、やたらとしっかりはっきり登場しちゃってた感じだし。それなりにおもしろくはあったのだけど、なんとなく、2012年にダニエル・ラドクリフ主演で制作された映画『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』を観たときと似たような、うっすらしたがっかり感が残りました。

あぁ、また上川さんと斎藤さんの組み合わせで観たいです。


パルコ・プロデュース公演 ウ-マン・イン・ブラック <黒い服の女>


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2015/07/20

志の輔らくご「牡丹灯籠」@本多劇場

下北沢で志の輔らくごを観るのは2回目。志の輔はなかなかチケットがとりづらいので、今回はとれてラッキーだった。

「牡丹灯籠」は、たぶん古いテレビドラマか映画でしか見たことがなく、原作がどんななのかは知らない。もともとはトータル30時間くらいになる三遊亭圓朝の創作落語らしい。そのうち、映像化されているのは主に、幽霊の娘と乳母が夜な夜な恋人である浪人のところに現れて、ついには浪人を取り殺してしまうという部分で、自分もこれがこの話の主テーマで、物語の大半なのかと思っていたのだけど、原作の落語はそうではないらしい。トータル30時間に及ぶらくご作品を、志の輔は前半に背景解説を1時間、幽霊が夜な夜な訪れるくだり以降(物語全体の3分の2くらいにあたるようだ)を2時間の、合計約3時間くらいにまとめて演じた。幽霊のくだりだけでなく、物語の最初から最後までを一通り全部3時間程度で表現するための工夫だそうだ。

全編を聞き終えて思ったのは、実は幽霊のくだりって、物語のなかでは意外と脇筋なんじゃね?ということ。物語の骨子は主に仇討で、そこに複雑なお家事情が絡むという、なんというか、とても歌舞伎っぽい物語のようだ。その仇討ちをドラマチックに演出するために、仇への出合い方のきっかけとして幽霊話をトリッキーに織り込んだ、という印象を受けた。率直に言って、幽霊パートの主人公である新三郎とお露なんて、物語全体のなかでみればすっごく小さな存在というか、仇討話を成立させるためだけのサブキャラのように思える。

もちろん、30時間を3時間にまとめているわけだから、そのまとめ方に志の輔なりの意図や思考があるはずで、それで言うと志の輔が、この物語のなかで新三郎とお露にはあまり興味を持たなかったのかもしれない。それよりも、幽霊に脅されてお札をはがし新三郎を死なせてしまった伴蔵や、その妻で欲深く嫉妬深いお峰のほうに、人間としてのおもしろみを感じたのかなと思う。たしかに、映像作品でも新三郎ってキャラが弱いし、お露もなぜそこまで新三郎にこだわるのかよくわからないところもあり、以前から主役二人が印象に残らない話だと思っていた。たしかにこの二人より、伴蔵夫妻のほうがある意味、人間味にあふれていて面白いな。

ただ、全体的には登場人物が多すぎて、複雑にしすぎた感がある話だ。それをわかりやすくするために志の輔は人物相関図を作成し、第一部で見せてくれたわけだが、この試みは非常に助かった。話だけではきっと、登場人物たちの関係が把握できなかっただろう。親の仇討のために剣の修業をしていた孝助の仇が実は修行先の師匠だったり、その師匠ができた人で、のちに孝助はその師匠の仇討を目指すことになったりと、運命の皮肉や不幸な偶然などもあって、それがひねりになっているわけだが、ひねりをいろいろ入れすぎて、全体の印象が散漫になってしまったのかなと思う。そんな話をコンパクトにわかりやすく楽しめたという点で、面白いというよりも勉強になった下北沢の志の輔らくごだった。


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2010/08/16

【舞台】スリー・ベルズ

渋谷のPARCO劇場にて。

最初に観たのは「ダブリンの鐘つきカビ人間」だったか「BIGGEST BIZ」だったか忘れたけど、後藤ひろひと大王の芝居はけっこう好きで、彼がらみのものはできるだけ観るようにしてる。今回の「スリー・ベルズ」も後藤ひろひとさんらしい、笑いと涙の入り混じったファンタジー。笑うべきところと泣くべきところをわかりやすく表現してくれるので、とても楽な気持ちで観ていられる。

3つの別々のストーリーが最後にはひとつの場所に収束する構成で、きっと一生懸命考えて全体の流れをつくったんだろうなと思うが、今回はちょっとばかし「ファンタジー」の曖昧さをご都合主義的に解釈して無理やりに一点着地させたかな、という感もなくもなく。とくにアメ女のストーリーはちょっとリアリティが希薄になりすぎたように思う。もちろんアメはメタファーなのだろうけど。あと、ミュージシャンと15年眠り続けた少年の話も、ちょっと少年の扱いがかわいそうだったような気が。

ところどころにちょっとした無理と、もう少し練り込めたんじゃないかな感を残しつつも、テンポよく展開し、きちんと場内の観客の心をつかんで、最後には一体感をもせるところが、さすが後藤ひろひと大王。最後に岡田浩暉さんの熱唱を持ってきたところもにくい。そういえば岡田さんって、もともとヴォーカリストだもんね。歌、うまいわ。

やっぱ舞台はいいなぁ。

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