あやしい彼女(2016年)
多部未華子さんは『ルート225』『夜のピクニック』(ともに2006年)や『鹿男あをによし』(2008年)のころから好きな役者さんのひとりで、多部ちゃんが出演している作品は基本的にはずれなしというか、どの作品でも趣のある役柄を演じるという印象です。映画とテレビドラマだけでなく、舞台を観たときも独特の雰囲気をまとっていて、その印象を強くしました。
ただ、この『あやしい彼女』はなぁ、これまでに自分が観たことのある多部ちゃん出演作のなかでは、最も「多部未華子という役者がはまっていない」作品ではないかと感じてしまいました。
もともとは韓国映画かなにかのリメイクらしいですが、元の映画がそうなのか、それともリメイクのしかたがへたなのか、物語の進行はテンポが悪いし、主人公の書きこみ方は薄いし、軽く群像劇風な要素があるけれど主人公以外の書きこみ方はいっそう薄くて、登場人物の誰にも魅力が感じられません。
多部ちゃんはがんばっているし、周囲にも小林聡美さん、倍賞美津子さん、志賀廣太郎さんといった芝居のできる人を揃えているのに、最初から最後までだらだらしていて平板に感じてしまうのは、脚本が悪いのか演出が悪いのか、それともカット割りが悪いのか、ともかく残念な感じです。
そしてなによりも、この作品では多部未華子という役者さんの魅力が活きていません。主人公の大鳥節子は胸の奥にあるいろいろな想いを上手に表に出すことが得意ではないタイプの人のようですが、倍賞さんが演じた冒頭20分ほどでの瀬山カツ(大鳥節子の本来の姿)の描かれ方があまりにも「ただの感じが悪いばあさん」で、この時点で反感しかもてなかったことと、大鳥節子になってからも基本的には「口の悪い小娘」の薄っぺらな青春シーンが多く、主人公のもつ想いや人間的な魅力といったものが感じられません。
大雑把な表面の内側にある心の機微の表現が必要な、本来であれば多部ちゃんが得意とするタイプの役柄であるはずなのに、ほぼ見た目どおりの人物にしか見えないのは、多部ちゃんの演技力のせいではなく、脚本や演出が多部未華子という役者の魅力を理解していないためではないかと感じます。その意味で、「多部未華子という役者がはまっていない」と強く感じます。
多部ちゃんの出演作はいくつも観てきましたが、「これ、多部ちゃんではない役者で観たかった」と思った作品は初めてです。想像するに、この脚本と演出ならば、綾瀬はるかさんや榮倉奈々さんなどが演じたほうが、もっとポップな感じになってよかったのではないでしょうか。多部ちゃんをキャスティングするならば、主人公だけでなく脇も含めて人物描写にもっと深みや奥行きがほしかったと想います。
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