WISHBONE ASH / JUST TESTING (1980)
1960年代の終わりごろに結成され、1970年にアルバム・デビュー。その後、1980年代前半までは毎年、それ以後も数年おきにアルバムをリリースし続けているWishbone Ash(ウィッシュボン・アッシュ)の、10枚目のスタジオ・アルバムです。
Wishbone Ashって「ツイン・リード・ギターがどうのこうの」と紹介されることが多いように思うのだけど、実際、美しいハーモナイズド・ツイン・リードもときおり聴けるけれど、実はあんまりツイン・リードじゃないですよね。ふたりのギタリストはどちらもリードが取れるけれど、曲によって、パートによって、リードとバックの役割分担をきちんとしていることのほうが多いです。
それよりも彼らの魅力の大きなところは、2本のギターのコンビネーションによる多彩なアレンジにあると思います。リズム楽器として、あるいはコード楽器として、単純にリフを刻むだけでなく、2本が違うかたちでコードを崩し、リフやカウンター・メロディを組み合わせ、さまざまなアンサンブルをかたちづくる、その妙が素晴らしい。コードを響かせるときも、ギターで一般的なオープン・コードだけでなくキーボード的なクローズド・コードも多用し、あたかもキーボーディストがいるかのように聴かせたり。さらにここに、単純にルートを単純な譜割りで弾くだけでない、むしろメロディ楽器かと思うくらいに動きまわるベースも絡むことで、アレンジ・アンサンブルに無限の可能性を感じることができます。そうしたWishbone Ashならではの魅力が、このアルバムにもたっぷりです。
ライヴではソリッドなかっこいい演奏が聴けることの多いM1「Living Proof」も、スタジオ録音の利点を生かし、エレキ・ギターだけでなくアコースティック・ギターも使い、複数のギター・サウンドを重ね合わせ、複雑で厚みのある、だけど曲自体の力強さを失わないアレンジになっています。この曲は個人的に大好きなのだけど、おそらく彼らの曲の中でもベストに入る1曲でしょう。リフも構成もギター・アンサンブルもコーラスも、すべてにおいてよく練られているし、完成されていると思います。
M2「Haunting Me」ではボリューム奏法(ヴァイオリン奏法)によるキーボード風のコード・バッキングを上手に使っています。ミディアム・スローのリズムで少しルーズな感じのあるブルージーな曲。スピーカーの左右で掛け合い風に演奏されるツイン・ギターが楽しめます。
M3「Insomnia」ではギター・シンセサイザーを前面に出した演奏が聴けます。
M4「Helpless」はハードでラウドな重たいリフを持ったブルース・テイストのロック。スローなシャッフル・ビートの上で奏でられるエレキ・ギターの歪んだ音がとてもいいです。
軽快なポップ・ロックのM5「Pay The Price」では、ベースが奏でるロックンロール風のフレーズの上でギターがホンキートンク・ピアノ風に細かいコード崩しを聴かせます。ツイン・リードも彼ららしいけれど、こうしたバック・アレンジの細やかさもまさにWishbone Ash的。
M6「New Rising Star」ではテープの逆回転SEからエレキ・ギターのクリーン・トーンによるアルペジオへとつなぎ、どことなくノスタルジックな古典SFに描かれる近未来的な雰囲気があります。こういう感じ、Electric Light Orchestra(エレクトリック・ライト・オーケストラ。ELO)とかThe Alan Parsons Project(アラン・パーソンズ・プロジェクト。APP)
などにもときどきありますね。
アコースティック・ギターのアルペジオとワウ・ペダルを使ったエレクトリック・ギターが印象的なM7「Master Of Disguise」は、前半はフォーク風というか、カントリー風な香りがありますが、エレキ・ギターのクリーン・トーンで始まる間奏はファンタジックでドリーミーな雰囲気があります。キーボードを思わせるギターのコード・ワークも彼ららしい。終盤に来るとDavid Gilmour(デイヴィッド・ギルモア)のPink Floyd(ピンク・フロイド)
ぽい感じにもなったりします。
M8「Lifeline」は、ヴォーカル・パートもありますが、それよりもインスト・パートの比率が非常に高く、複数本のギターとベースが複雑にかつ美しく絡み合うアンサンブルの妙を聴かせるという、いかにもWishbone Ashならではの曲になっています。イントロから前半はどことなくミステリアスな雰囲気も漂わせたスローなポップ・ロック、後半に入るとテンポ・アップし、力強く美しいハード・ロック風になります。ルートを弾くよりもフレーズを弾くほうが多いベースはほとんどリード楽器のようで、そのベースとギターがハーモニーを奏で、もう1本のギターが崩したコードで華やかにバックを飾ります。
CDにはこのあと4曲のボーナス・トラックが入っています。
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