RENATO ZERO / VOYEUR (1989)
Renato Zero(レナート・ゼロ)の15枚目のアルバム。
1970年代後半から80年代なかばにかけてリリースしたアルバムがどれもチャート1位を獲得し、人気を磐石なものにしたかに見えたRenatoでしたが、1984年の『Identikit』以降セールスが低迷、ツアーの動員も厳しくなっていました。2枚組アルバムとしては好調期であった1981年の『Artide e Antartide』、翌1982年の『Via Tagliamento 1965/1970』以来の『Zero』を1987年にリリースし起死回生をはかりますが、これもセールスはまったく振るわず。そこで心機一転をはかったのか1989年にロンドンへと飛び、次のアルバムはLucio Battisti(ルーチォ・バッティスティ)
やClaudio Baglioni(クラウディオ・バッリォーニ)
などのアルバム・プロデュースやアレンジャー、キーボーディストとしても著名なGeoff Westley(ジェフ・ウェストリー)とともにつくることにしました。そうしてリリースされたのが『Voyeur』です。
Renatoらしいロマンティックで美しいメロディがふんだんに聴かれるアルバムになりましたが、どこか都会的で爽やかな印象があるのは、Geoff Westleyの影響でしょうか。キーボードによるオーケストレーションをふんだんに使い、生のオーケストラとは違う、どこか乾いた感じの厚みと奥行きを表現しています。ハード・ロック的なギター・サウンドが聴ける曲があったり、エスニックな雰囲気のパーカッションが効果的に使われたりと、イタリアン・ポップスの枠にとらわれない、よりワールド・ワイドな印象のあるアレンジが施されています。シンセ・ベースの多用や、シンセ・プログレなどでよく聴かれるピロピロと鳴るシンセサイザー・サウンドなど、全体にデジタル感が強く感じられるのはちょっとどうかなと思いますが、それもまたRenato
の挑戦だったのかもしれません。同じようなことをイタリア国内でやろうとすると、それまでの彼のアルバムに散見された「安っぽい歌謡曲風のシンセ・サウンド」になってしまったようにも思います。
軽快な曲も多く収録されていますが、歌謡曲ぽい安っぽさが感じられるものはなくなり、より洗練されたポップスばかりになりました。もちろん、ロマンティックなバラード系のスロー・チューンもあり、それらは抑え気味のオーケストレーションをバックに、ほどよい哀愁を持って歌い上げられます。哀愁はあってもべたべたとしつこい感じがしないのはRenatoの持ち味ですね。一方、これもまたRenato
の個性である芝居がかったヴォーカルは、このアルバムではほとんど聴けません。より素直に、なめらかに歌っています。
ドラマティックな構成がRenatoらしいM1「Il canto di Esmeralda」、アコーディオン風に音づくりされたシンセサイザーが哀愁を奏で南伊風の印象を漂わせるM2「Voyeur」、夜空を眺めているようなおだやかでやさしい気持ちになるM4「Accade」、あやしげなイントロと明るく美しいヴォーカル・パートのミスマッチ感がおもしろいM6「Il grande mare」、イタリアらしい素直で流れるようなメロディが魅力的なM9「Talento」、ピアノとオーケストラをバックにやわらかであたたかみのあるメロディをロマンティックに歌い上げるM11「Ha tanti cieli la Luna」など、心地のいい曲が多数収録されています。
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