PAUL GAFFEY / MEPHISTOPHELES (1975)
オーストラリアのシドニーで録音された、ゲーテの戯曲『ファウスト』などで有名な悪魔・メフィストフェレスをテーマにしたコンセプト・アルバム。ジャケットの背にはヴォーカルを担当したPaul Gaffey(ポール・ガフィー)の名前がクレジットされているので、ここでも便宜上「Paul Gaffeyの“Mephistopheles”というアルバム」にしておきますが、実際は作詞・作曲を手がけたSimon Heath(サイモン・ヒース)が中心となったプロジェクトのようです。
52人からなるオーケストラを全編に配し、15人の合唱隊をしたがえて展開されるロック・オペラ。非常にドラマティックで厚みのある演奏が聴けます。ただ、もう30年以上前の作品ということもあり、曲調はどことなく古くさいミュージカル風。オーケストラの使い方もプログレッシヴ・ロックというよりは劇伴風というか、映画のサントラ風で、ここにも時代を感じます。それでもオーケストラの熱の入った演奏や工夫の感じられる楽曲展開、アルバム構成などは、いまでも楽しめると思います。
ロック・オペラということもあり、歌メロに歌詞優先・台詞優先の部分がいくらか見受けられ、歌曲としてのメロディの魅力が制限された感じを受けます。ロック・オペラであるための演劇調のヴォーカルが、ときに楽曲にうまくマッチしていないように感じられるのと、Paul Gaffeyのヴォーカル・スタイルもこうしたシアトリカルな歌唱にあまり合っていないように思います。
また、せっかく15人もの合唱隊がいながら、彼らにスキャットのコーラスしかさせていないのがもったいない。メイン・ヴォーカリストと一緒に歌詞を混声のハーモニーで歌わせるとか、メイン・ヴォーカリストもまじえた複数旋律のヴォーカライゼーションを導入するとか、もっと合唱隊を上手に使い倒していたなら、よりドラマ性と厚みがましたように思います。それと、リズム・セクションが弱いなぁ。せっかくオーケストラが力強く分厚くドラマティックに鳴っているのに、リズムのアレンジが単調だしドラムの音はバタバタしてるしで、ちょっと興ざめです。
M1: Mephistopheles
不安げなオーケストラ。サスペンス映画のBGMのよう。アコースティック・ギターのコード・ストロークとドラムの音になんだか艶がないというか、なめらかさがないように感じるのは、残響処理がうまくいってないからでしょうか。せっかくオーケストラがつくりだした雰囲気をリズム楽器が壊している感じです。
M2: So Sad
ちょっとシリアスな感じのオーケストラ。うっすらと悲壮感を漂わせるメロトロン。オルガンとスキャットによる合唱が入るパートはクラシカルで荘厳な雰囲気。
M3: Dreamer of Dreams
おだやかな弦楽四重奏をバックに歌われる静かな曲。夜想曲といった感じです。
M4: Paradise
深い響きのピアノとスキャットの合唱によるイントロはクラシカルですが、ヴォーカル・パートは古いロックンロール風。軽快なピアノのコード・ストロークと、ぶかぶかと鳴るラッパに、言葉を投げるような演劇調ヴォーカルがミスマッチ。
M5: Dear People
深遠なメロトロンの響き。悪魔の甘い言葉を囁くヴォーカル。悪夢への入口を感じさせます。
M6: Finale
M1のテーマへ戻ります。クラシカルなオーケストラと合唱に、やっぱりリズムがそぐわない感じが残ります。
LPでA面だったM1~M2、LPのB面だったM3~M6は途切れなしに演奏されます。おおよそ同年代のロック・オペラだからか、Emilio Locurcio(エミリオ・ロクルチオ)の『L'eliogabalo』(1977)とか、Tito Schipa Jr.(ティト・スキーパ・ジュニア)
の『Orfeo 9』(1973)などにもどこか通じるような雰囲気があるように思います。
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