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2008/05/13

TRIANA / LLEGO EL DIA (1983)

1974年に結成されたスペインのロック・グループ、Triana(トリアナ)の、6枚目のアルバム。このアルバムをリリース後、グループはいったん解散しますが、1990年代に再結成され、4枚くらいの作品をリリースしているようです。

いまでこそ、英米以外でも電気やガスといったインフラストラクチュアが整った都市生活をおくれる国であればおそらく世界中どこにでもロック・ミュージックはあるだろうと、当たり前のこととして感じられますが、ほんの20年くらい前までは、イタリアといえばカンツォーネ、フランスといえばシャンソン、ソ連といえばロシア民謡くらいしかイメージできなかったわけで。また、そうした国で生まれたロックには、どことなくそれらのイメージに近い雰囲気をきちんとまとっていました。つまり、イタリアのロックであればカンツォーネの香りがしたり、フランスであればヴォーカルがやっぱりシャンソン風であったり。大衆音楽であるロックと、そうした地域性を感じる音楽が入り混じったところが新鮮であり、まだ見ぬ国への想像力をかきたてたものです。

では、スペインといえば? そう、フラメンコです。

イタリアやフランス、ドイツのグループにくらべ、スペインのグループが日本に紹介されたのは遅かったように思います。量的にも、ずいぶん少ないのじゃないでしょうか。これまでにあまり聴いたことのない「スペインのロック・グループ」からどんな音が出てくるのか、やっぱりフラメンコ・テイストたっぷりのロックなんじゃないだろうか... しかし、その期待にストレートに応えてくれるグループは、意外と少ないのが実態です。フラメンコチックなギターがちょこっと顔を出すことはあっても、全体にはもっと軽快ですっきりとしたロック、フュージョンぽいなめらかさや軽やかさを持った曲が多く、スペイン&フラメンコのイメージを強く持つグループは、実はあまり見当たらないのです。むしろスペイン国外のグループのほうが、よりスパニッシュ・フレーバーなロックを演奏しています。たとえば、Santa Esmeralda(サンタ・エスメラルダ。ポルトガル系アメリカ人を中心にフランスで結成されたグループ)や、Carmen(カルメン。出身はアメリカだけど、主にイギリスで活動していたグループ)、Gipsy Kings(ジプシー・キングス。南仏のプロヴァンス出身で、主にフランスで活動)などのほうが、よほどスペインぽい感じです。

そんななか、きっちりと「スペイン出身」を感じさせてくれるスペインのロック・グループが、このTriana。分厚いキーボードのオーケストレーションにスパニッシュ・フレーバーたっぷりなガット・ギターの演奏が絡み、独特の哀愁を振りまく歌メロが乗る。まさにイメージどおり、スペインでしかありえないと素直に感じられるスパニッシュ・ロックを演奏するグループ。とくにファースト、セカンドの哀愁度、完成度は素晴らしく、スパニッシュの名盤といえます。

当初はキーボードを使ったシンフォニックな要素も多かったのですが、その後、徐々にキーボードの比重が減っていったようで、6枚目となるこの『Llego el dia』ではかなりシンプルな演奏になっています。ピアノやオルガンのクラシカルな響きが心地よく、ポップ度を増したけれど埃っぽい哀愁のきちんと残ったスパニッシュな歌メロが楽しいです。ときおり地中海プログレっぽい印象を見せたり、古い芝居小屋っぽい雰囲気を漂わせたりすることもあり、野暮ったくも味わい深いアルバムと思います。

M1: Desnuda la manana
フラメンコの香りのする歌メロ。ソレアレス風味のあるアコースティック・ギター。エレキ・ギターはツインでハーモニーを聴かせ、ほどよい洗練を感じます。

M2: Perdido por las calles
フラメンコというよりはラテン・ポップス風でしょうか。レゲエっぽいリズムにスペインらしい哀愁を持ったメロディがのります。明るい感じがするのに哀愁も混じってるところがスペインぽいように思います。歌のバックで四分音符の三連を刻むキーボードのコート・ストロークが印象的。

M3: De una nana siendo nino
ピアノによるイントロはベートーヴェンの「月光」風でしょうか。8分の6拍子によるミディアム・スローの曲で、オルガンのひなびた響きも印象的。少しざらついたあたたかみのあるキーボードの音色には、どことなくPremiata Forneria Marconi(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ。PFM)を思い出したり。メロディを奏でるように動き回るベースをバックに哀愁のメロディが歌われます。エレキ・ギターはちょっとブルージーな感じ。

M4: Aires de mi cancion
スペインらしいフラメンコ風のガット・ギターで始まります。歌メロもスペインらしい、どこか野暮ったい感じのする哀愁。しかしバックはテクニカル・プログレのような雰囲気があり、そこに南欧や地中海の香りが混じって、どこかPFMにも通じるような印象を受けます。

M5: Llego el dia
クラシカルなコード進行を奏でる古色ゆかしいオルガンの響きにProcol Harum(プロコル・ハルム)を思い出したり。シンプルなメロディですが、サビではコーラスが入り、ほどよい哀愁があるところはTrianaらしい味わいです。静かなオルガンの上に抑えたギターと子供たちの歌が入る間奏はシンフォニックな味わいで、その後のリズム隊が入ったパートとともにプログレッシヴ・ロックらしい感じがします。

M6: Querida nina
リズムの強調されたミディアム・テンポのロック。いまとなってはキーボードの使い方がちょっと古くさく野暮ったい感じがしますが、味わいのあるヴォーカル・ラインはTrianaらしいです。

M7: Como el viento
ミュートをつけたホーンのくすんだ音色が、スペインというよりは、どことなく大正浪漫風。古い芝居小屋めいた、どことなく怪しく胡散臭い感じが漂います。


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