SERGIO ENDRIGO / NUOVE CANZONI D'AMORE (1971)
1933年6月15日、アドリア海に三角形に突き出したイストリア半島の南端に近いPola(ポーラ。当時はイタリア王国の領土でしたが、第二次世界大戦中はユーゴスラビアが占領。その後、国連安全保障理事会管理下の非武装中立地域を経て、現在はクロアチア領)で生まれたSergio Endrigo(セルジォ・エンドリゴ)が1971年にリリースしたアルバムです。手元にあるのは2008年にCD再発されたもので、ボーナストラックが3曲追加収録されています。
ガット・ギターとオーケストラをバックにした、やさしく素直で美しいメロディが楽しめます。古い時代のアルバムなので、曲の感じも古いですが、これはこれで魅力的。ポピュラー・ミュージックがまだリズムよりもメロディ重視だった頃のやわらかなポップスです。ほどよく哀愁をにじませた美しさはイタリアらしい感じですが、あまり力強く情熱的に歌い上げたりすることはなく、その点ではカンツォーネとかナポレターナというよりもアメリカのオールディーズのほうに近いかと思います。歌声も、声量豊かというタイプではなく、とてもやさしげです。
アレンジとディレクションをLuis Enriquez Bacalov(ルイス・エンリケス・バカロフ)が担当していることもあり、艶やかで映画音楽風のドラマチックさを持ったオーケストラが配置されています。Bacalov
によるオーケストラ、しかも1971年のリリースということで、プログレッシヴ・ロックのファンならOsanna(オザンナ)
やNew Trolls(ニュー・トロルス)
のアルバムにあった雰囲気をここにも探したくなるところでしょうが、Sergio
のアルバムはあくまでもポップス作品なので、それはちょっと無理な感じです。それでもM6「Le parole dell'addio」などではオーケストラによる演奏パートやストリングスの音色に「Concerto grosso」
の面影が見えます。
M1: La prima compagnia
アコースティック・ギターをバックにしたナポレターナぽい曲。ガット・ギターの響きがメランコリックで、やわらかな哀愁があります。
M2: Erano per te
たおやかなオーケストラとハープの音色。オーケストラだけ聴いているといいのだけど、歌メロやヴォーカルとはあまりマッチしていない気がします。むしろオーケストラなしのシンプルな演奏のほうが、この曲の魅力が引き立ちそう。
M3: Ma dico ancora parole d'amore
南イタリアの情景が浮かびます。明るい海と陽射しを感じるガット・ギター。シンプルで素直でやさしいメロディ。この曲でもちょっとオーケストラが強すぎるかな。
M4: Ljubica
なぜか歌詞がフランス語のようです。それもあってか、シャンソンぽい感じがします。だけどあまりメソメソした感じがなく(シャンソンはメソメソしているというイメージなんです、自分にとって)、明るい海のようなイメージが広がるところはやっぱりイタリアです。ひなびた音色のヴァイオリンも古いヨーロッパらしい趣があります。
M5: Quando tu suonavi Chopin
クラシカルなピアノが印象的です。タイトルにもあるように、バックにショパンの曲を使っています(有名な曲なのでメロディは知っているのだけど、曲名は知りません)。やわらかな美しさとほのかな哀愁のあるなめらかなメロディは、いまとなっては非常にオールドスタイルですが、安心して聴いていられます。
M6: Le parole dell'addio
Luis Enriquez Bacalovの名前にOsanna
やNew Trolls
のアルバムのオーケストラ・サウンドを期待するプログレッシヴ・ロック寄りのファンが求めるオーケストラの音がここにあると思います。このオーケストラが歌メロやヴォーカルとあっているかというと、なんとも微妙かもしれない気がしますが、オーケストラの演奏パートや艶やかなストリングスの音色だけを聴いていると「Concerto grosso」
の面影が見えてきます。歌メロがむかしながらのシンプルなポップスなので、オーケストラに少し負けてしまっているかも。
M7: Io che vivo camminando
古いフォーク・ポップスといった感じの曲。このアルバムの収録曲には南イタリアやナポレターナぽい雰囲気が見え隠れするものが多いのですが、この曲からは南のイメージを受けません。少し寂しげな哀愁をまとった、やさしく美しい曲で、イタリアらしい感じではあります。Sandro Giacobbe(サンドロ・ジァコッベ)とかに通じる感じかもしれません。この曲でのオーケストラはあまりでしゃばらずにいい塩梅です。
M8: A mio favore
ガット・ギターの音色が、少し弦が古くなって枯れた味わいが出てきたときのようで、ちょっとノスタルジックです。あえて新品の音じゃない感じが、ナポリの古い街角音楽を思わせます。メロディ展開が素直で、あまり激しく盛り上がることなくおだやかに歌っている感じも、何年か前に見た「18世紀のナポリ」(だったかな?)というミュージカルで歌われていたような古いナポリ音楽を思い出させます。ガット・ギターのアルペジオとオーケストラをバックに、やさしくやわらかなヴォーカルが聴けます。
M9: Chi sei
M8と似たタイプの曲。ほとんどガット・ギターによる弾き語りにオーケストラが入っているような感じです。オーケストラの艶やかな音色がどこか映画音楽風に感じます。
M10: Quando ti lascio
たおやかなオーケストラをバックにしたやさしい感じのポップスふうに始まりますが、途中からスリー・フィンガー双方によるアコースティック・ギターが入り、軽快なフォーク風のポップスへと変わっていきます。さらにはSchola Cantorum(スコラ・カントルム)風のコーラスも加わり(もしかしたらSchola Cantorumがレコーディングに参加してるのかも)、いっそうフラワー・ムーヴメント時代のコーラス入りフォーク・ソングのようになります。
M11以降はボーナストラックで、オーケストラ入りの古いポップスといった感じです。
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