FLAVIO GIURATO / IL MANUALE DEL CANTAUTORE (2007)
1949年生まれ、ローマ出身のカンタウトーレ、Flavio Giurato(フラヴィオ・ジウラート)の、4枚目のアルバムになるのかな。
1978年にデビュー作『Per futili motivi』、1982年にセカンドの『Il tuffatore』、1984年にサードの『Marco Polo』と、比較的順調にアルバムをリリースしていたのですが、その後、音楽界からすっかり消えてしまいました。アルバムがどれもセールス的にまったく成功しなかったため、歌ったり曲をつくったりすることをすっかりあきらめて、テレビ制作の世界で働いていたらしいです。
しかし、彼のつくる音楽には独特の味と魅力があり、彼が音楽業界を離れてからもコアなファンが彼の音楽を愛好していました。それまでにリリースされたアルバムはどれもレア盤なコレクターズ・アイテムとなっていましたが、インターネット上で集まった彼のファンたちによって独自にプロモートされるなど、ファンとその友人たちのあいだで彼の音楽は愛され続けられていました。
そんな状況を知ってか知らずか、Flavioも徐々に音楽への興味を取り戻していきました。そして2002年、18年ぶりのニュー・アルバム『Il manuale del cantautore』を制作・発表。記憶が不確かなのですが、このアルバムはたしか、パッケージ商品としては販売されず、インターネットからのファイル・ダウンロードによる販売だけだったように思います。また、彼の活動再開を追うように、ミラノの出版社から未発表のライヴCDを添付したトリビュート本『Il tuffatore - Racconti e opinioni su Flavio Giurato』が2004年に出版されました。
2007年にCDリリースされた『Il manuale del cantautore』は、2002年にダウンロード販売された同名の作品に収録された曲の別ヴァージョンに、さらに新曲数曲を加えたかたちでパッケージ販売されたもののようです。
彼のアルバムはセカンドとサードを聴いたことがありますが、地味なメロディを淡々と歌うカンタウトーレといった感じで、いわゆるイタリアン・ポップスのファンにはすすめにくいものです。でも、その地味さのなかにおだやかな哀愁があったり、バックの演奏にはプログレッシヴな感性がちらちら見えたりして、プログレ系カンタウトーレのファンには無視しきれない魅力があります。
このアルバムも同様に、基本は地味なフォーク・タッチの曲が多いのですが、最後までフォーク・タッチのままで終わらず、途中で場面展開があったり、プログレッシヴ風に変化していったりと、なかなかの曲者です。どこか寂しげで憂鬱そうな歌声は、ときにMauro Pelosi(マウロ・ペロシ)などを思い出させたりもしますが、Mauroのような絶望感はなく、寂しいけれどどこかに希望や明るさを感じます。また、その淡々とした歌い方にはFabrizio De Andre'(ファブリツィオ・デ・アンドレ)の影もときどきよぎるように感じますし、シンプルそうに見えて意外と工夫やひねりのある曲調にはTito Schipa Jr.(ティト・スキーパ・ジュニア)などにも通じそうなものを感じます。ところどころでシアトリカルな要素も感じられ、これまでに聴いたことのある彼のアルバムよりもさらにクセのある音楽ファン向けに思われます。アルバムの最後を飾る2曲などは非常にプログレッシヴ・カンタウトーレの趣が強いといえるでしょう。
M1: Il Manuale del Cantautore
ピアノとアコースティック・ギターのみをバックに、淡々と歌われます。その歌声は少し憂鬱で、だけどどこかロマンティックな雰囲気も漂います。飾り気のない歌だけど、サビに向けて、飾らないままにきちんと盛り上がっていきます。
M2: La Tentazione
アコースティック・ギターの独奏風のイントロにハミングがかぶさり、ヴォーカル・パートが始まるとフォーク・ロック調になります。歌詞のなかにGesu(イエス)、Mari(マリア)といった言葉が聞こえるので、なにか宗教的なテーマがある曲かもしれません。落ち着いた曲で、うっすらとしたオーケストレーションや、部分的に入るコーラスも味わいがあります。
M3: Il Caso Nesta
ブルース風味のあるフォーク・ロックといった感じでしょうか。歌のバックで入るエレキ・ギターのメロディがいなたいです。さびでは大人数によるコーラスが入り、ここでもJesus(ジーザス)という言葉が聞こえます。
M4: Centocelle
アコースティック・ギターのアルペジオをバックに、少し寂しげでメソメソした感じの歌が乗ります。哀愁のあるヴァイオリンが、そのメソメソ感をさらに盛り立てます。中盤からはリズムが入ってフォーク・ロック風になりますが、バックではエレキ・ギターがいなたいフレーズを奏で、そこにヴァイオリンが憂鬱なメロディをかぶせます。どことなく、いろいろなことをあきらめたかのような寂しい感じを受けます。
M5: La Giulia Bianca
M1などと似た感じの、淡々とした曲。始まりは少し憂鬱な感じですが、それがだんだんとやわらかなあたたかさを持った感じになっていきます。後半部はちょっとVincenzo Spampinato(ヴィンチェンツォ・スパンピナート)などにも通じる感じでしょうか。
M6: L'Ufficialino
都会風の洒落た感じとボサ・ノヴァにも通じそうなやわらかさのあるギターのコード演奏で始まります。ヴォーカル・パートに入るとひなびた音色のヴァイオリンや哀愁のハーモニカが加わりますが、湿っぽい感じにはなりません。曲の展開のしかたや歌い方に演劇的な雰囲気があり、舞台におけるシーンの移り変わりをイメージさせます。
M7: Silvia Baraldini
ギターのアルペジオトリム・ショットを使ったドラム。淡々と歌われるヴォーカル。寂しげで孤独な感じの曲です。歌メロはシンプルですが、ブルージーでいなたいエレキ・ギターのフィル・インやコーラスなどが曲が単調になるのを防いでいます。
M8: Praga
演奏なしの台詞のみで始まり、非常に演劇風です。その後、歪んだエレキ・ギターのストロークが中心となったロック風の演奏が始まり、細かい符割りの歌メロが乗ります。エレキ・ギターのディストーション・サウンドとピアノの澄んだ音色の対比が美しいです。後半になると突然に場面展開があり、アコースティック・ギターとコントラバス(かな?)によるやさしく哀しげな音楽になります。
M9: Ustica
アコースティック・ギターのアルペジオに乗せてフォーク風に歌われます。やわらかなあたたかさを携えてとつとつと歌う感じがFabrizio De Andre'に少し似てるように思います。中盤ではリズムやヴァイオリンも入ったミディアム・テンポのフォーク・ロック風になり、終盤では儚げで美しい音色を奏でるピアノのソロ曲へと急激に場面転換をします。このピアノ・パートは次の曲のイントロダクションのように感じられます。
M10: Core Addannato
エレキ・ギターのアルペジオに載って、おだやかで、どこか寂しげで、落ち着いたヴォーカルが聴かれます。淡々としたシンプルなメロディにも寂しさが付きまといますが、そのなかに一瞬現われるあたたかみにホッとします。
M11: Mi-Lang
おだやかに落ち着いた、そして沈んだ感じの歌声は、寂しげなのだけど、少しだけ希望もあるように感じられます。前半はギターが中心の淡々としたシンプルな演奏ですが、後半にはオーケストレーションやピアノも入り、ドラマティックに、演劇風に盛り上がっていきます。メロディも哀愁のあるイタリアらしいものになっていきます。8分近い大曲で、後半に向けての展開はプログレッシヴな匂いがします。
M12: I Dinosauri
アコースティック・ギターのアルペジオをバックに、寂しげな哀愁を漂わせたシンプルな歌が聴けます。後半に入るとリズムやオーケストレーション、女性コーラスなどが入り、音が厚く、ドラマティックに盛り上がっていきます。この曲にもプログレッシヴな感性が見え隠れしていて、思わずにんまりしてしまいます。プログレッシヴ・カンタウトーレ作品が好きな人には、M11、M12はなかなか興味深い曲ではないでしょうか。
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