IL MITO NEW TROLLS / TR3 (2007)
主に1970年代から80年代にかけて精力的に活動していたNew Trolls(ニュー・トロルス)ですが、1990年代になると活動が途切れがちになり、1996年のサンレモ音楽祭に参加しアルバム『Il sale dei New Trolls』をリリースしたあとにグループが分裂。以後、Nico Di Paro(ニコ・ディ・パーロ)率いるIl Mito New Trolls(イル・ミト・ニュー・トロルス)と、Vittorio De Scalzi(ヴィットリオ・デ・スカルツィ)率いるLa Storia dei New Trolls(ラ・ストーリア・デイ・ニュー・トロルス)というふたつのグループが「New Trolls」の名前を掲げ、New Trollsの曲を演奏するグループとしてライヴ活動を続けていたようです。
La Storia dei New Trollsのほうは2001年に、1998年に行なったベスト選曲的なライヴと、2000年に行なったオーケストラ入り「Concerto Grosso」再現ライヴをCDでリリースし、日本のファンにも存在をアピールしたのですが、Il Mito New Trollsのほうは活動そのものはいくらか伝わってくるものの、具体的な音源が日本にまで届くことはありませんでした。そのかわり届いたのが、Nico Di Paroがクルマで大事故にあい、半身不随になったという噂。これにより、Il Mito New Trollsもそのまま消滅かと思われたのです。
ところが2007年にVittorio De Scalzi率いるNew Trollsが前年に続き2回目の来日公演を行なうことがアナウンスされ、そこで新曲「Concerto Grosso 3」を披露することが発表されました。しかも、そのステージには懸命なリハビリにより音楽界に復帰したNico Di Paroが同行するとも。そして日本のファンは初めて、La Storia dei New Trollsではない、NicoとVittorioのふたりが同じステージに立つ本物の「New Trolls」を観ることができたのです。
分裂していたふたりのリーダーが再度(再再度?)手を取り合い、11年ぶりにニュー・アルバム『Concerto Grosso - The Seven Seasons』をリリースしたNew Trolls。La Storia dei New Trollsが本家を受け継いだ形になり、Nico Di Paroを正式に?失ったIl Mito New Trollsはどうなるのかと思いましたが、彼らにも意地があったのでしょうか、同じ2007年にグループとして初の一般販売用公式音源(デビュー・アルバム)を発表しました。それが『TR3』です。デビュー作なのに「3」というタイトルがついてる意味は、わかりません。
このアルバムには6曲の新曲(CDのみ)と、2004年に彼らが行なった「Concerto Grosso」再現ライヴ(CDおよびDVD)の両方が収録されています。もともとは新曲だけのCDリリースが予定されていたはずなのですが、曲数が揃わなかったのか、本家への対抗意識なのかはわかりませんが、半分以上が「Concerto Grosso Live」となり、アルバムとしては非常に中途半端なものになってしまいました。
でも、1980年代以降のポップス・グループとしてのNew Trollsは、Vittorio(& Nico)のいる本家にではなく、もともとのリーダー格を失ったIl Mito New Trollsが受け継いでいるように、自分には思えます。新曲に「Concerto Grosso」の新作を持ってきた本家New Trollsよりも、コーラス多用の美しいポップスを持ってきたIl Mito New Trollsこそが、New Trollsらしい魅力を持っているように感じるのです。
もし、このままIl Mito New Trollsが活動を続けるなら、次は全部を美しいポップスで埋め尽くした、正しく『Il sale dei New Trolls』に続くアルバムを期待したいし、それができるのではないかなと思わせるだけの魅力が、この『TR3』に収録された新曲からは感じられます。率直にいって、『Concerto Grosso - The Seven Seasons』よりも、この『TR3』のほうが自分は好きだし、New Trollsの音楽として、よりふさわしいようにも感じています。
M1: Dove sei
軽やかなリズム。明るくあたたかくやわらかいメロディ。さわやかで美しいコーラス。1980年代以降のポップス・グループとしてのNew Trollsの姿がここにあります。メインのヴォーカル・ラインの合間にハイ・トーンのヴォーカルが入るスタイルなど、いかにもNew Trollsらしくてうれしいです。
M2: Hey fratello
なぜかアフリカっぽい?掛け声で始まります。だからといって民俗音楽系ポップス風になるわけではなく、曲自体は明るくさわやかであたたかいNew Trollsらしいポップスです。フランジャー(ジェット・マシーン)のかかったエレキ・ギターが印象的。ヴォーカルの持ち回りや美しいハーモニーといったお家芸?ももちろんあります。キーボードの音づくりや短いオルガンのソロに華やかさを感じます。最後のほうにもエスニックな掛け声が入りますが、意図はわからず。
M3: Due parole
アコースティック・ギターのアルペジオにのって弾き語り風に始まります。そこへゆったりとしたバックの演奏が加わり、イタリアらしい美しく少し愁いを帯びたメロディが歌われます。字余り的なカンタウトーレ風の前半と、なめらかに歌われるサビとの対比も心地いい、おだやかなスロー・ポップスです。
M4: Un vento forte dal mare
ミディアム・スローのポップス。Pooh(プー)などにも通じる、素直で美しいイタリアらしさにあふれたヴォーカル・ラインが楽しめます。New Trollsならではのコーラス・ワークも堪能できます。
M5: Prendi le mie mani
エレキ・ギターとキーボードのユニゾンで始まり、そのままエレキ・ギターのリフ風につながるイントロが、1980年代から90年代くらいにかけてのアメリカン・ロックぽい感じ。軽快なポップ・ロックですが、バックの演奏がやや軽い感じです。エレキ・ギターがディストーション・サウンドを聞かせてくれればハード・ロックにも聞こえるタイプの曲だと思うのですが、根がやはりポップス・グループなのでしょうか。メロディの魅力もちょっと薄いかな。
M6: Solo un bel ricordo di te
ミディアム・テンポのポップ・ロックで、これもちょっとアメリカっぽい感じです。エレキ・ギターとアコースティック・ギターを上手に組み合わせたバックのアレンジに工夫を感じて楽しいのですが、リズムが単調に思います。メロディ展開や構成も素直で聞きやすいけれど、盛り上がりに欠けるため、軽快なリズムに流されちゃっている気がします。M5やM6のようなロックぽい感じは、彼らにはあわないのかもしれません。
M7以降は「Concerto Grosso I/II」の再現+「Una notte sul Monte Calvo(禿山の一夜)」のライヴです。「Concerto Grosso」という曲(とくに“I”)の旬はとっくに過ぎていると自分は思っているので、あまり興味が持てません。La Storia dei New Trollsのライヴ盤にくらべると、ちょっとビートが弱いというか、あまり「ロック」を感じさせないかなという気がします。その点でもIl Mito New Trollsは「ロック」ではなく「ポップス」のグループなのかもしれないなぁと感じます。
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