GIANLUCA GRIGNANI / DESTINAZIONE PARADISO (1995)
1972年4月7日生まれ、ミラノ出身のカンタウトーレ、Gianluca Grignani(ジァンルカ・グリニャーニ)のデビュー・アルバムです。アルバムのタイトル曲となっている「Destinazione paradiso」は、この年(1995年)のサンレモ音楽祭参加曲です。
いまでは優しく少し哀しげなバラード系ポップスを歌う中堅カンタウトーレとして人気のGianlucaですが、デビュー当初はもっとロックよりの力強い曲を得意にしていたようだ...
と自分はずっと思っていました。というのも、彼の古いアルバムは1996年のセカンド・アルバム『La fabbrica di plastica』しか自分は聴いたことがなく、このアルバムが骨太でどこか土の匂いのする力強いロック作品だったからです。なのにアルバムを出すごとにどんどん軟弱路線にいってしまい...
と思っていたところに初めて聴いたこのデビュー作。彼、デビュー当初からあんまり変わっていなかったんですね。むしろセカンド・アルバムが彼のディスコグラフィアのなかでは少し異色なのかもしれません。
素直できれいだけどあまり盛り上がりや緩急のないメロディを、比較的淡々とおだやかに優しく、ほんのり哀しみを漂わせつつ歌います。ときどき土臭くいなたい感じや歌謡曲風の薄っぺらい感じ、軽やかなポップ・ロック風の匂いなども混じり、まだ自身の方向性が多少まとまっていなかったのかなという印象は受けますが、それでもここで聴かれる大半は、最近の彼の音楽とほとんど変わらないものです。
M1: La mia storia tra le dita
やわらかなアコースティック・ギターのコード・ストローク。都会的なテンション・コードと素直なメロディ。ミディアム・スローのおだやかで洒落たポップス。
M2: Falco a meta'
感傷的な雰囲気を持ったスローな曲。哀愁の漂うメロディとコード進行。曲の序盤で聴かれるヴォコーダーのかかったヴォーカルがいいアクセントとなっています。物語を感じさせる構成・展開が好ましいです。
M3: Una donna cosi'
コースティック・ギターのコード・ストロークに乗ってとつとつと歌われます。Gianlucaの寂しげな表情が目に浮かんでくるような感じです。淡々としたなかに哀愁があり、サビで少しだけ盛り上がるという曲づくりは、彼の持ち味ですね。
M4: Camina bambina
引きずるようなディストーション・ギターのイントロはいなたくブルージー。でもヴォーカル・パートは明るい雰囲気を持っていて、どちらかというとカントリーチックなのがミスマッチ風でおもしろい感じです。サビではオーソドックスなポップス風になりますが、ギター・ソロはやっぱりいなたいブルース風。
M5: Primo treno per marte
ここまで寂しげな曲が続いていたので、この曲のイントロの明るいコードの響きが印象的に聴こえます。メロディ展開はあいかわらず淡々としていますが、そこに消極的ながらも前向きさが感じられ、最後まで明るさを保っているのが好印象です。
M6: Destinazione paradiso
ほんのりブルースの香りがするアコースティック・ギターの響きで始まります。この感じをより力強く、ロック風にすると、セカンド・アルバムのようになっていくのでしょう。序盤はフォーク・タッチですが、ヴォーカル・パートが始まると彼らしい、ある意味でワンパターンな曲調になります。淡々と進む、ほどよく美しくほどよく哀愁のメロディ。それを盛り上げるオーケストレーション。とてもGianluca風。
M7: Ci vuoi tornare con me
リズムを少し強調したアレンジがされています。シャカシャカしたアコースティック・ギターのコード・ストロークとパーカッション。「hoo! hoo!」という女性コーラス。素直な流れと明るい雰囲気を持ったミディアム・スローのポップス。
M8: Tanto tempo fa
チャッチャカチャッチャカといった軽快なリズムに少しだけマイナー気味のメロディ。エレキ・ギターのフィルインやオルガンの音にちょっと古いポップスの香りを感じます。演奏の持つ力強さ(といっても、たいして強くはないですが)とリズム感にヴォーカルがついていけていない感じがします。彼のスタイルとは違うのでしょう。アルバムの構成が単調になるのを防ぐために、あえてこういう曲をいれたのかもしれません。アルバム内のアクセントとしては悪くありませんが、曲そのものはけっこう凡庸です。曲の最後はめずらしいGianlucaのシャウトで終わります。
M9: Come fai?
アコースティック・ギターのアルペジオが美しい、フォーク・タッチの優しい曲。オーケストラがおだやかに響きます。サビで少しだけ盛り上がるけれど、あとは淡々としているのはいかにもGianluca風。その淡々とした曲の前半部分は、たとえばFrancesco Guccini(フランチェスコ・グッチーニ)
とかFrancesco De Gregori(フランチェスコ・デ・グレゴーリ)
とかが歌っていたなら、もっと説得力のあるいい曲に感じただろうになぁ、とか思ってしまいました。
M10: Ae-au
安っぽいシンセサイザーのSEで始まります。エレキ・ギターのコード・ストロークや、前に出てくるベースの音などに、歌謡曲っぽい薄っぺらさを感じます。
M11: Il gioco di sandy
海?で遊ぶ子供たちの声のSEにオーケストラがかぶるイントロ。ヴォーカル・パートはアコースティック・ギターのアルペジオで始まり、ロマンティック&ドラマティックな展開になりそうな雰囲気がたっぷりだったのだけど、けっきょくはいつもどおりの、あまり動きや緩急のないメロディ・ラインが淡々と歌われるだけでした。マイナー調で始まって、サビでメジャー風になるという展開は、ありがちといえばありがちだけど、悪くはありません。ただ、アルバムの締めとなる曲ですし、もう少し大きな動きやドラマティックな構成がほしかったところです。最後も子供たちの声のSEで終わりますが、こういう細工をするのなら余計に、もっと曲の構成や展開で物語を感じさせてほしかったと思います。
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