BANCO / URGENTISSIMO (1980)
プログレッシヴ・グループのBanco del Mutuo Soccorso(バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソ)が名前を短くBanco
だけに改め、レコード会社もRicordiからCBSへと移籍しての最初のアルバム。時代の要請にあわせて、がんばってポップな曲を演奏しようとしていた時期の作品で、生粋のプログレ・ファン、プログレなBanco
が好きなファンからはあまり評価されていない、というのが以前は一般的なプログレ界の評判だったように思うのですが、最近、紙ジャケットで再発されたのを機に「いま」の時代のなかで聴いてみると、意外と悪くないじゃんという方向へ評価が変わってきているように見えます。
紙ジャケ再発盤で初めて自分もこの時期のBancoのアルバムを聴いたのですが、たしかにプログレど真ん中ではないものの、ほんのりプログレッシヴなテイストを持ったポップス/ロックとして、なかなかいい感じというのが率直な感想です。
1970年代のプログレッシヴ・ムーヴメントそのものはずっとむかしに縮小してしまっているけれど、そのときにポピュラー・ミュージックに持ち込まれたプログレ的な思想や楽器や演奏方法やアレンジなどはその後もさまざまなポピュラー・フォーマットへと応用されました。いまでは、プログレとはだれも呼ばないような音楽の中にプログレ的な匂いが漂っていることはごくあたりまえにあります。古のプログレ・ファンは、それを嗅ぎ取り、思わずにっこりしてしまったりします。そしてCBSのころのBancoのアルバムには、それと似たような印象を感じるように思います。つまり20年以上も前に、いまのようなプログレ風味をほんのりにじませるポップ・ミュージックを演奏していたともいえるわけで、やっぱりプログレッシヴなグループなのですね。
CBS第1弾のこのアルバムでは、プログレへのこだわりを残しつつも力強くタイトでコンパクトなロックやポップスが楽しめます。キーボードの音色・音づくりにはところどころ時代を感じさせる古臭さがあったりはしますが、キラキラと華麗なキーボード・プレイはさすがBancoです。また、ポップ・フィールドへ歩み寄ろうとしているため、1曲の中におけるヴォーカルの比重が高まっていて、Francescoの美声が存分に楽しめる点も歌ものファンの自分にはうれしいところ。しかも、歌メロのセンスがなかなかいいので、意外と「プログレも好きなポップス・ファン」の嗜好に合いやすいように思います。
M1「Senza riguardo」では華やかなキーボードの音色に産業ロック風の香りをほんのり感じます。重くて力強いミディアム・テンポのハード・ロックで、ディストーション・ギターのコード・ストロークがかっこいい。カラフルなキーボード・プログレの匂いも残っています。
M2「Dove sara`?」では、語尾が一瞬裏返るようなロックン・ロール風ヴォーカルがちょっと聴けます。シャクリー唱法とかいうのでしたっけ? オペラティックなヴォーカル・スタイルが売り物のFrancescoにはめずらしいと思います。タイトなリズムと、意外と可愛らしいメロディを持ったポップ・ロックです。ちなみに、サビの部分のメロディがなにかの曲に似てるのだけど、思い出せません。たしか、Wishbone Ash(ウィッシュボン・アッシュ)の曲だったと思うのだけど。「Front Page News」
だったかなぁ。
M3「C'e` qualcosa」のイントロがキーボードの白玉コードで、いかにもあのころの都会風ポップスといった感じです。作り物っぽいキーボードの音色に時代を感じます。曲の前半は都会風ポップ・ロックですが、サビのあたりのメロディや演奏はプログレッシヴの匂いが強く残っています。都会風に始まるわりには全体に重くシビアな感じが漂っているのが、やはり生粋のポップ・ロック・グループじゃないなという感じ。各楽器が満遍なく使われるアレンジが演奏力の高いバンドらしいです。
M3エンディングのパーカッシヴなSEが途切れずにM4「Luna piena」へとつながります。ベースとエレキ・ギターのユニゾンによるリフは妖しげで、Santana(サンタナ)の「Black Magic Woman」
とかちょっと思い出しました。歌メロはなめらかで、Francescoの歌声を活かしていると思います。
M5「Paolo, pa」はとても明るく楽しげな曲。ハンド・クラップまで入り、Pilot(パイロット)かよとか思ってしまいました。歌謡ポップス的なニュアンスもあり、これが(も)Banco
!?と、ちょっとびっくりしてしまいます。スライド・バーを使ったエレキ・ギター、エレクトリック・ピアノの細かいコード・カッティングなど、軽やかで親しみやすいポップスを演奏しようとがんばった姿がうかがえますが、そのわりには歌メロ、とくにサビのあたりは妙に重厚感と趣があるプログレ風味です。このミスマッチ感が、むしろ楽しくはありますけれど。
M6「Felice」もイントロで白玉キーボードとブラス・サウンドのシンセサイザーを使い、都会風な雰囲気を出しています。ヴォーカル・パートに入っても、ジャズのフィーリングを導入した都会風コンテンポラリー・ポップスといった表情を崩しませんが、演奏のはしばしにプログレッシヴの香りが見え隠れしています。ここでのFrancescoはアドリブ風のスキャット・ヴォーカルも聴かせてくれ、またしてもキャラにない歌い方でがんばってくれています。ところで、この曲の終わりが密林風SEなのはなぜなんでしょう?
M7「Ma che idea」は夏のビーチが似合いそうな、爽やかで明るい曲。キーボードの使い方も派手で華やかです。クリーン・トーンのエレクトリック・ギターが奏でるソロ・パートはロックン・ロール風。終盤にはギターとベースの掛け合い~キーボード・ソロ~短めのドラム・ソロといった流れもあって、これもロック・バンド風ですね。
M8「Il cielo sta in alto」は2分ほどのインストゥルメンタル曲。リズミックだけどどこかうにょうにょしたシンセサイザーがいつしかStevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)の「Superstition」
風の小気味よいコード・カッティングに変わり、明るくスペイシーなキーボードが入ってきてシンフォ・ポップ風になってきたなと思ったところで曲が終わります。そしてこれがアルバムの終曲。不思議な締め方です。
紙ジャケ再発盤にはこのあと、「Paolo, pa」の英語ヴァージョンがボーナス・トラックとして収録されています。イタリア語版よりもよりタイトで乾いた感じのアレンジがされています。ハンド・クラップも入っていないようで、ロック色が強まっています。
販売価格¥4,410 |
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希望小売価格¥8,568 |
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