VICTOR PERAINO'S KINGDOM COME (1975)
メロトロン使用比率が非常に高いプログレッシヴ作品として、以前はけっこうプログレ・ファンのあいだで話題になることが多かったように思います。うちにあるのはずいぶんむかしにブートレグで再発されたLPレコードだけど、いまはボーナストラック入りのCD再発盤が手に入るようです。
メロトロン、派手に鳴り響いてます。むかしは、メロトロンさえ鳴り響いていればプログレッシヴ・ロックとしてはそれでOKみたいな風潮がいくらかあったような、なかったような。実際自分も、メロトロンの音さえ聴こえてくれば気分がよかったような時期があったような、なかったような。でも最近の自分は、メロトロンの音はいまも魅力的に聴こえるけれど、メロトロンも含めた曲全体のメロディやアンサンブルが魅力的でないと、OKとは思えなくなっています。
で、このアルバム。ブートLPで音質があまりよくないという点を差し引いても、自分にはあまり魅力的には響かない作品です。メロトロンをたくさん使ったハードロックといった印象で、プログレッシヴ・ロックというよりはアート・ロックの時代に近い音に感じます。1975年て、まだこんな音の時代でしたっけ? イギリスはもちろん、イタリアでも、もう少し洗練されていたように思うのだけど。
M1「Sun sets sail」はオルガンとキーボード主体のスペイシーなハード・シンフォといった印象で、ときどきコズミックな感じもまじります。手数は多いのだけどもっさりした感じのリズムが、いかにもあのころのプログレ風。意外とおとなしいハード・ロック/ヘヴィ・メタルといった趣もあります。
M2「Demon of love」ではファズ・ギターが全編に響き、いっそうハード・ロック風味。リズムはあいかわらずもっさりです。
M3「Empires of steel」あたりからメロトロンが大げさに前面に出てきはじめます。この曲ではフルートも入り、ハードなパートやスローでメロウなパートが上手に組み合わされたドラマティックな構成で、いかにもプログレッシヴ・ロック風に展開します。音自体はアート・ロックの時代に近いように感じます。
M4「Tru」ではキーボードとメロトロンが中国風というか東洋風なメロディを奏で、不思議な雰囲気を振りまきます。ヴォーカル・レスで、途中でセリフみたいなものが少し入るだけの、変な曲。
M5「Lady of the morning」はスローなシンフォニック・バラード風に始まります。フルートやメロトロンが物悲しげな音色を響かせます。どことなく、スペインのEduardo Bort(エデュアルド・ボルト)のファースト・アルバムとかに印象が似てるような気もします。曲の後半に入ると演奏が力強いものになり、スピーディなシンフォ・プログレッシヴ風になります。
M6「Garden of death」では、それまでドカドカと汗臭く野暮ったく力強いリズムを叩きだしていたドラムがリズム・ボックスに替わり、ベースもシンセ・ベースが使われ、全体にコズミックな印象のスロー・チューンになっています。あいかわらずメロトロンは全編に鳴り響いています。
M7「Run through your life」でもメロトロンに注意がいきがちですが、ヴォーカル・ラインはけっこう普通。ハード・ロック風味のあるシンフォニック・ポップス、メロトロン入り、といった感じでしょうか。
アルバム最後のM8「At last a crew」は、このアルバムではめずらしくアコースティック・ギターのコード・ストロークがイントロで聴けます。ただそれだけのことですが、ドコドコと暑苦しく暴れん坊な部分の多いアルバムなので、最後にアコースティックの音が聴けて、なんだか休まります。でも、そのすぐあとにみょんみょんしたシンセサイザーが入ってきてしまいますけれど。こういったシンセの音づくりや使い方が、いかにも古臭い感じです。もちろんメロトロンも最後までがんばってます。ヴォーカル・ラインは古いイギリスのポップス風で、素直なメロディが魅力的です。このアルバム、自分にとっては魅力的なメロディが見つかりにくい作品なのですが、この曲はめずらしく「歌が魅力的」に感じられました。
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