週末映画
■メイキング・オブ・ドッグヴィル ~告白~■
ほとんど床に線を書いただけのようなセットで撮影された特異な映画『ドッグヴィル』は、簡易なセットとは対照的な奥行きのある示唆にあふれた内容で、自分は非常に気に入っています。その『ドッグヴィル』
のメイキング。
まるで舞台演劇のようなセット。スウェーデン(だったか?)の森の奥、あたかもドッグヴィルの町そのもののような場所にある倉庫のような中につくられたセット。慣れない環境で進む撮影に疲弊していく役者たち。でも、この作品の完成にもっとも不安を持ち精神的に疲弊していたのは、脚本も自分で書いた監督本人だったのですね。指揮官であるべき監督の不安定さが役者にも伝播し、そこから生まれた現場の不安が役者の演技に演技以上の緊張感を与え、それがフィルムに収まって『ドッグヴィル』という負の意識の力を強く感じさせる作品になったのだな。
■マグノリア■
これは、面白いような、面白くないような、自分としてはちょっと微妙。世の中にあるちょっとした偶然は、本当に偶然なのだろうか、それとも実はある種の必然ではないのか、といったようなことがテーマなのかとは思うのだけど、その偶然のような必然をあまり楽しめなかった。
たくさんの人物が登場するが、大まかには「死にかけじいさん」グループと「クイズ番組」グループに分けられる。死にかけ組とクイズ組は、死にかけじいさんでつながるのだけど、それ以外のリンクがない(よね?)のが残念。クイズ組のほうは、司会者と絶縁中の娘に好意を寄せる警官が捕まえた男が元クイズ王だったといった「偶然のサークル」があるのだけど、死にかけ組のほうはじいさんを中心に放射状の関係性しかなく(だったよね?)、「偶然の必然性」があまり感じられない。登場人物同士がもっと相互にあちらこちらで偶然の細い糸でつながっていたら、もっとおもしろかったのになと思います。
しかし、最後の蛙はどうなんでしょうねぇ。もう少しましな終わり方はなかったのでしょうか。蛙でなければいけない理由が、自分にはわかりませんでした。
■花咲ける騎士道■
とても微妙。あちらこちらに「小さな笑いどころ」が用意されているのだけど、そのどれもがことごとく自分には面白くありません。ストーリー的にも薄っぺらく、とても簡単につくられた子供向け少女漫画みたい。
自分にとっての見どころは、ペネロペ・クルスだけでした。スペイン語や英語で話すとどうも品のない、育ちの悪い感じに聞こえてしまうことの多いペネロペのセリフが、フランス語だとけっこうかわいく聴こえるのがよい。そしてなにより、やはりペネロペは美しいですね。ときどき、ダンテ・ガブリエル・ロセッティの描いた絵画のようにすら見えます。
■モンスター■
これは、きつい話だな。もともと人間は悪であるけれど、悪だらけだと自分も生きにくいから、長い年月をかけて善を装うことを覚えてきた。そのなかで「もともと人間は善だ」と勘違いする者も出てきた。でも、善は教えなければ身につかないもの。世の中が善に満ちていて、自分も善として善の中で善とかかわりながら生きていくには、誰かが「世の中って、そういうものだよ」と教え、それを見せていかなければいかない。残念ながらアイリーンは、それを教えてもらえなかった。それを見せてもらえなかった。
生活環境と教育環境の悪い中からは、善を装い、善でつながり、善を広める知恵と知識と行動は生まれにくい。そうして彼らはいつも「間違った決断」をする(とセルビーのおばはいう)。でもたぶん、間違った決断こそが人間が本来的にしたい決断なんだろう。より根源的な欲求・欲望。
人間は、「善き人間であろう」という意志のもと、自分たちで「善き人間像」を描き、それを実現するための規律をつくり、その規律を守ることを周囲に求め、自分を含めたグループがその規律に従うことでやっと「人間」となれる。ある種の同意のうえでつくられた意思と規律。これを軽視するのは、実はとても根源的な欲求なはず。だけど、その欲求に従うと「人間」ではなくなってしまうのだな。
ただ、この映画での「モンスター」は、おそらくアイリーンのことをさしているのだと思うけれど、自分にはセルビーのほうがよほどモンスター的で恐ろしいと感じた。
■パイレーツ・オブ・カリビアン ~呪われた海賊たち~■
地上波で放送されてたので、ひさしぶりに観た。しかし、日本語に吹き替えるとどうしてみんな、軽くて薄っぺらな感じになってしまうのだろう。ジャックのふざけた狡猾さも、バルボッサの尊大だけど実は人のいい感じ(?)も、吹き替えからは感じられなくなってしまう。なので、早々に英語音声に切り替え。セリフはほとんど聞き取れないけれど、映画館とDVDで何回も観てるので、話の筋は知っているし、おおよそどんなセリフだったかも覚えているので問題なし。
放送時間を拡大しての放送だったけど、やはりあちらこちらでカットがあり、小ネタ的な楽しみどころがなくなっているのが残念。ジャックがパーレイを要求するところもカットされ、それゆえ最後にバルボッサの手下がパーレイを要求するおかしさ(海賊らしい自分勝手さ)も浮き上がらなくなってしまった。やはりDVDでノーカットを見たほうが面白いですね。
キャプテン・ジャック・スパロウはもちろん魅力的なキャラですが、個人的にはキャプテン・バルボッサがとても好き。乗組員とともに反乱を起こしてジャックを追放しブラック・パールの船長となったけれど、その乗組員から実はそれほど尊敬もされていなければ恐れられてもいないところが素敵。なにかの理由で寝返るやつは、別の理由でまた寝返る。それをバルボッサは知っていたはず。それはきっと、寂しいことだろう。その裏返しのように、派手な羽飾りのついた帽子をかぶり、いかにも野卑で力強い言葉を発する。しかし彼は、けっきょくリンゴを味わうこともできないままに死んでいく。あぁ、素敵だ。演じたジェフリー・ラッシュの表情やアクション、台詞回しも非常に魅力的。映画のパート2最後で復活したバルボッサがパート3でどんな活躍をしているのか、すごく楽しみだ。
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コメント
ご無沙汰しています。
パイレーツの3作目、昨日観てきました。話の内容は、敵味方がコロコロ変わって少しばかり難しいところがありましたが、そんなことは抜きにして娯楽作品としては超一級、とてもスケールが大きくて、久方ぶりに映画館で観るのに相応しい映画らしい映画を観たと感じました。(子供と一緒に行ったのですが、主要キャストを含め結構人が死ぬので、その点は意外でした、これでディズニー映画なんですか...?)
バルボッサ!大活躍していましたよ。特にクライマックスの対戦シーンの中で、あぁ、こんなオイシイ役回り。今作の登場人物の中で一番信用できると言うか、行動が首尾一貫していたのはバルボッサだったのではないかと思います。
とにかく劇場で観て下さい。
投稿: ニョッキ | 2007/05/28 23:42
そうですか! バルボッサ大活躍ですか。彼はかっこいいですもんね。映画1作目から、実はもっとも行動がわかりやすくて一本気なのはバルボッサだったりしますし。いっそう楽しみになりました。いつ観にいけるかな。大スクリーンで上映されているあいだに行かなくちゃ。
パイレーツ・シリーズ、前作(2作目)はデイヴィ・ジョーンズが艦長室でオルガンを弾くシーンにむかしの映画のネモ船長へのオマージュが見えたり、クラーケンに飲み込まれたジャックはきっとピノキオのジュゼッペじいさんのように=旧約聖書の預言者ヨナのように腹の中でしばらく過ごし、ある種の真理を見出して帰ってくるんだろうなと思わせたりと、意外と深みのある内容でした。最終作となる今作はいかに?
ジャックはやっぱり今作でもsparrow(おしゃべりすずめ)なのか、エリザベスは最後までswan(高潔な魂)なのか、ウィルは今回もturner(旋盤工、というよりも状況をturnさせる人?)なのか。そして海亀ギターを抱えて登場するという噂のキース・リチャーズ(ジャックのパパ)はどんな活躍をするのか(しないのか?)... わくわく。
投稿: もあ | 2007/05/29 08:32