ボブはどこへいった?
地上波テレビで放映された『ラスト サムライ』を観てたんですよ。家で夕飯食べながら、日本語吹き替えで。
映画の内容については、とくにここでは触れません。それよりも、とても気になることがひとつ。
自分、この映画は劇場で1回観ているのです。そして、そのときにとても印象的だったことのひとつが「ボブ」なのです。
ボブ。劇場で字幕版をご覧になった方なら、あるいは昨日のテレビ放送を吹き替えでなく原語で(の放送もあったのですよね?)ご覧になった方なら、おぼえていらっしゃるでしょう。トム・クルーズ演じるオルグレン大尉の監視役として渡辺謙演じる勝元がつけた、無口な年配の侍のことです。
彼は、この劇中では名前がありません。オルグレンが名前をたずねても答えず、そもそもほとんど言葉を発しません。ただ黙って、しかし常にオルグレンのそばを離れず、ずっとオルグレンを監視しています。
たずねても名前を教えない彼に対しオルグレンは、「それなら、これからおまえをボブと呼ぶことにしよう」といい、以後、なにかあるたびに「ボブ」「ボブ」と彼を呼ぶのです。
ただの見張りである名もなきひとりの老侍が、ボブとして、ひとりの人間として、その存在を認められたわけです。
しかしテレビで放送された日本語吹き替え版では、この老侍はたんに「寡黙な侍」とテロップで紹介されるだけです。オルグレンが彼を「ボブ」と呼ぶことは一度もなく、非常に存在感が薄い。
なぜ、「ボブ」を削除してしまったのだろう。
最後の決戦のときに、オルグレンを守るために、オルグレンの目の前でボブが敵の手にかかって殺されるシーンでも、日本語吹き替えによるオルグレンのセリフは、たしか「よせーっ!」でしたが、あそこは原語では「ボブーっ!」と叫んでいたはず。
最初はたんに「名前のわからないままでは鬱陶しいから」という理由でボブという適当な名前をつけたのかもしれません。しかし、自分で名前をつけたものに対しては、愛着を感じるようになるというのはよくあること。ボブ、ボブと呼ぶうちに、オルグレンがこの老侍に対して好意的な感情を持つようになるのは自然です。また、余計なことを語らず、黙々と自分の任務に励む老侍に、勝元や氏尾などとは表現方法は違うけれど彼らに通じる何かを感じ、ひきつけられ、敬意を持っていたと思うのです。
またボブにしても、殿(勝元)の命令で見張りを命じられた得体の知れない蛮人が、自分のことをボブ、ボブと呼び、友好的に接しようとしてくるなかで、オルグレンに対する感情が、たんなる「捕虜」から「客人」そして「戦友」へと変わっていったと想像するのも難しくないでしょう。
だから、この老侍は「寡黙な侍」ではなく「ボブ」でなければいけないし、オルグレンの叫びも「よせーっ!」ではなく「ボブーっ!」でなければいけないと思うのです。
自分に「オルグレンの見張り役(それはおそらく、警護役も兼ねているのでしょう)」という任務を与えてくれた殿(勝元)の期待と信頼に応えるために、そして、名もなき老侍である自分に「ボブ」という名前をくれ一緒に戦う友人となったオルグレンを守るために、戦場でオルグレンの前に出て敵に殺されたボブもまた、勝元や氏尾に劣らない、立派な侍のひとりだったのです。
なのになのに、昨日のテレビ放送では「ボブ」がなかったために、彼がただの年老いた侍にしか見えず、本当に残念。あの映画での「ボブ」の意味って、けっこう大切だと思うのだけどなぁ。こういうことがあるから、地上波で放送される映画にあんまり興味がなくなってきちゃうのだよなぁ。やはり映画はノーカットで、原語+字幕で見たいです。
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コメント
ハジメマシテ。
>この老侍は「寡黙な侍」ではなく「ボブ」でなければいけないし、オルグレンの叫びも「よせーっ!」ではなく「ボブーっ!」でなければいけないと思うのです。
誠に同感です。
昨日の放送は(幸いに?)見なかったけど「ラスト・サムライ」は映画館で見ました。映画自体はトム・クルもよくこんな(似合わない)コスプレ引き受けたなぁ…と思ったのですが、ボブのところはユーモラスで後の悲しさが際立つから印象的だったのに省かれちゃったんですねぇ。
投稿: mica | 2006/12/11 13:58
気になったので、DVDを見てみました。やっぱり原語では「ボブーっ!」と叫んでいますね。イタリア語でも同じでした。ここはやはり、そうすべき場面ですよね。
時間が取れたら、もう一度ゆっくり見直そうと思います。
ちなみに、イタリアではトム・クルーズのことをトム・クルイズと呼んでいます。タイトルは「ルルティモ・サムライ L'ultimo Samurai」です。
投稿: なこ | 2006/12/12 02:54
きょうは、ここまで大尉とか表現したいです。
投稿: BlogPetの小丸 | 2006/12/12 11:35