MAURIZIO GIARRATANO / UOMO DI MARE (2006)
Maurizio Giarratano(マウリツィオ・ジァッラターノ)はシチリアのトラーパニ(Trapani)近郊にあるマザーラ・デル・ヴァッロ(Mazara del Vallo)というところの生まれだそうですが(1978年の獅子座だそうです)、彼の音楽に、いわゆるイタリア南部の香りはほとんど感じません。いまはボローニャに住んでいるようで、いつボローニャに移ってきたのかはわかりませんが、もしかしたらボローニャでの生活のほうが長いのかもしれません。
2002年頃から各地の音楽祭などに参加するようになり、「Confessione di un amore」や「Viaggi e Miraggi」といった曲が高評価を受けたようです。そして2006年、これらの曲を含んだアルバム『Uomo di Mare』でアルバム・デビューしました。
やさしく柔らかな歌声で、ミディアムからスローが中心の、ほんのりノスタルジックな感じを含んだメロディアス・ポップスを歌うというスタイルは、最近ではまったく目新しさのない、ありがちなものです。歌声にもこれといって強い個性はなく、メロディもどこかで聴いたことがあるような気がするものばかり。こういった個性のなさが彼の弱点だと思いますが、逆にいえば、とても安心して聴いていられるともいえ、これはこれで悪くはありません。
M1「Viaggi e Miraggi」では明るく軽やかなアコースティック・ギターのストロークが小気味よく、オーケストラが軽快さとふくらみを加えます。ほんのりノスタルジックなメロディを持った、Lunapop/Cesare Cremonini(ルナポップ / チェーザレ・クレモニーニ)系のポップ・ロックです。
M2「Uomo di Mare」明るくやわらかな印象のなかにノスタルジーがほんのりありますが、こちらはスローなポップス。
M3「Sara'」はエレクトリック・ピアノとキーボードで始まり、おしゃれで都会風のポップスになりそうな予感を漂わせますが、ヴォーカル・パートが始まると、素朴であたたかみのある、どちらかというと田舎くさいポップスになります。この「素朴な感じ」は、なかなか好ましいMaurizioの持ち味といえそうです。
M4「Con il Cielo Sulla Testa」では、室内楽風のたおやかなストリングスとピアノが響き、そこに、どこか懐かしい感じのする柔らかな歌メロが乗ります。やさしい感じのスローなポップ・ロックですが、サビのところのメロディはどこかで聴いたことがあるようなもので、ちょっと没個性な印象も受けます。
M5「Ascoltami」は、いくぶんシリアスな雰囲気のあるスロー・ポップス。1コーラスめはベースとリズム・ボックスにアコースティック・ギターのアルペジオというシンプルな演奏で、2コーラスめからはオーケストラも入り奥行きのある演奏になります。歌い方もこれまでと少し変えているようで、低めに、抑えめに歌っています。このように歌うと声の田舎っぽさが少し抑えられるようです。曲の終盤ではエレキ・ギターも入り、ロック・バラード的な力強さも出てきます。
M6「La Confessione di un Amore」のイントロは、オーケストラとワウワウをかけたエレキ・ギターのコード・カッティングという、なんだかむかしの歌謡曲ぽい印象です。ヴォーカル・パートもちょっとイージー・リスニング風の軽やかさや明るさがあり、歌謡ポップスといった感じです。
M7「Canzone per un'Amica」は最近の若いカンタウトーレによくある感じの軽快で明るいポップ・ロック。やわらかいメロディの連なりとはんなり美しいなめらかさがイタリアン・ポップスらしいと思います。
M8「Con Te Saro'」ではちょっとワイルドな感じに歌いだしますが、やはりノスタルジックな哀愁がほのかに漂っています。サビではワイルドさが後退し、抑えた明るさとやさしさがある素直なメロディになります。
M9「Verso il Sole」では歪んだ音のエレクトリック・ピアノによるコード・カッティングと重い感じのエレキ・ギターがバックに入り、このアルバムでは異色です。演奏に合わせてか、ヴォーカルも力強く歌っているのですが、もともとMaurizioの歌声はあまりパワフルではない、どちらかというと田舎の素朴で優しい兄ちゃん系なので、迫力不足な感じは否めません。それにはかまわず、途中ではハード・ロックなギター・ソロなども入り、いったいどうしちゃったんだろうと思ってしまいました。
アルバム・エンディングのM10「Il Tuo Mondo」は素直でやさしくやわらかなスロー・ポップスに戻ります。これといってどうといったことのない、普通にきれいなポップスなのですが、M9で「どうしちゃったんだ?」感いっぱいになっていたため、なんだかとても安心して聴けました。
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