« Niccolo' Fabiの『La cura del tempo』が | トップページ | GOBLIN / IL FANTASTICO VIAGGIO DEL "BAGAROZZO" MARK (1978) »

2006/10/10

4つの家

最初の家は、なにもない原っぱの真ん中に建っていた。いつも夕暮れで、田舎町の急な坂道を下って角を曲がると突然、なにもない原っぱが広がる。そして遠くに木造平屋建ての、その家の明かりが見える。ほかには1軒も家がない。陽はどんどん暮れていく。心細く感じながら、遠くに見えるひとつの明かりをめざして、草以外になにもないなかをたった一人で歩く。すっかり夜になったころ、やっとその家にたどり着く。引き戸を開けると、部屋の中はほんのり黄色がかった明るい灯りで照らされていて、お膳の上には温かい食事の用意もできている。でも、誰もいない。人の気配がない。台所には大きな砥石と、よく砥がれた包丁がまな板の上に置いてある。風呂場では、むかしながらの薪で焚く風呂が沸いていて、古ぼけた木製の湯船にたっぷりと張られた湯から、やわらかな湯気が上がっている。食事の前に寂しく湯につかりながら、想う。二度とここから出られない、もう元の世界には戻れない...

ふたつめの家は、白い壁の近代的な一軒家だった。しかし建築から何年か経ち、新築当初は輝くような白亜であったろう外壁も、いまは黒ずみ、陰鬱な雰囲気を醸している。細い路地に面して建つその家は、よくは覚えていないのだけど、ちょっと不思議な構造だった。門から石段を数段登って玄関を入ると、狭い廊下の向こうにおそらくリビングが見える。右手には2階へ続く薄暗い階段があり、キッチンは階段を降りた地下にあった。家の中はいくたびに、どこも古びた蛍光灯の照らすぼんやりとした青白い光に包まれている。家の中には誰もいない。食事をつくらなくてはいけないのだけど、どうしてもキッチンに降りていく気になれない。白い冷蔵庫、白い戸棚、ステンレスの流し。狭いキッチンも、蛍光灯の放つ寂しげな青白い光に照らされている。誰もいない。でも、なにかいる。だから、入っていけない。体が、心が、その場所に入ることを拒絶する。逃げ出したい。でも、逃げられない。どこにも...

みっつめの家は、親戚か誰かの家の別荘らしい。田舎に建つ大きな二階建ての一軒家。広い庭があり、庭に面して大きなガラス窓。その窓の手前に渡り廊下があって、雪見障子のついた広い畳の部屋。部屋には押入れと床の間以外、なにもない。いつものように、見たことのない自分の家族と一緒に2階の奥の部屋で休んでいると、誰かが外からやってくる。1階の玄関を開け、家に入ってくる気配がする。だけど、見たことのない家族たちはみな眠っていて、誰も起きようとしない。玄関の気配に気づかないのだろうか。いったい誰が来たのだろう。気になる。気になるけれど、起き上がれない。体が、心が、いっている。起きてはいけない。見てはいけない。玄関を入った気配は、階段をのぼり、2階へとあがってくる。渡り廊下を静かにすすみ、まもなくこの部屋の障子の前までやってくるだろう。誰が来たのだろう。なにが来るのだろう。見たくない。聞きたくない。逃げ出したい。動けない...

よっつめの家は、いや、それが家なのかどうか、よくわからない。暗く狭い部屋。何度も何度も連れてこられているのに、それとも、自分で望んで来ているのかもしれないが、その形や特徴を覚えられない。身動きできないような場所で、たった一人で眠っている。たった一人で。たった一人で。一人で。一人で。だけど、なにかがいるのはわかっている。いつもそれを感じている。逃げ出したいと思っている。誰も助けてはくれない。ずっと恐怖とともに身を硬くして眠っている。たった一人で。たった一人で。一人で。一人で。家が、中に入ってこようとしている。それを拒んでいる。でも、いつまで拒み続けられるだろうか。拒みきれるだろうか。たった一人で。たった一人で。一人で。一人で...

もう、いきたくない。

|

« Niccolo' Fabiの『La cura del tempo』が | トップページ | GOBLIN / IL FANTASTICO VIAGGIO DEL "BAGAROZZO" MARK (1978) »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

 ふたつめの家、知ってます。

投稿: なこ | 2006/10/10 16:15

どうして、知っているの?
どこにあるの?

投稿: もあ | 2006/10/10 17:08

 冗談ですよ。

投稿: なこ | 2006/10/10 17:18

こわいよ...

投稿: もあ | 2006/10/10 17:25

 あら。こう言ったら面白いかな、と思っていたずらしちゃいました。ごめんなさい。これは映画の内容なんですか?

投稿: なこ | 2006/10/10 17:55

何年にも渡って繰り返される悪夢です。

投稿: もあ | 2006/10/11 13:14

 え、夢とはいえ実話なんですか? それは怖いですね。

投稿: なこ | 2006/10/11 21:37

もあさん、お早うございます。

とても女性的な夢だと思います。

何が起こるか、誰が来るか?
怖いながらもどきどきとして、待ち焦がれるような気持ちがします。

今度、どうぞ受け入れて、その「人」や「もの」の正体を見てみてくださいな。

投稿: ムーン・フェアリー・ヒロコ | 2006/10/12 09:13

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 4つの家:

« Niccolo' Fabiの『La cura del tempo』が | トップページ | GOBLIN / IL FANTASTICO VIAGGIO DEL "BAGAROZZO" MARK (1978) »