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2006/06/21

SEBASTIAN HARDIE / FOUR MOMENTS

オーストラリアン・プログレッシヴ・ロックのトップ・グループであり、また、あまたあるシンフォニック・プログレッシヴ・アルバムのなかでも傑作としての輝きを放つ、Sebastian Hardie(セバスチャン・ハーディ)のデビュー作。プログレッシヴ・ロックやシンフォニック・ロックといえばヨーロッパのものだと(おそらく)多くの人が思っていた1970年代の半ばに、ヨーロッパから遠く離れた南半球の海に浮かぶ大陸で、よもやこんなにも芳醇な香りあふれるシンフォニック・ロックが生まれていようとは、当時、いったい誰が想像したでしょうか。

たしかLPではM1からM4までがA面で、この4曲で「Four Moments」という組曲扱いだったように記憶しています。実際、これらの4曲は共通したテーマ・メロディを持っていて、切れ目なく続いていきます。

M1「Glories shall be released」ではいきなりの雄大なメロトロンに圧倒されます。ここで奏でられるのが組曲「Four Moments」のテーマ・メロディで、マイナー調だけど、どこかおおらかなあたたかさがあります。続くヴォーカル・パートは軽やかでポップなメロディですが、これが第2のテーマ・メロディになっています。そして最後はまたメロトロンに乗った第1のテーマ・メロディに戻り、雄大に終わります。この終わり方は無理やりくっつけたような印象がありますが、こういった強引さもプログレッシヴ・ロックの醍醐味ではありますね。なお、M1で奏でられた、この2つのテーマ・メロディは、このあとの曲中にも頻繁に現われます。

ある意味で派手なM1に続くM2「Dawn of our sun」は、少し落ち着いた雰囲気を持っています。ゆったりしたメロディラインは、たくさんの星が瞬くオーストラリアの夜空を眺めているようです。演奏のなかに一瞬だけ、エレクトリック・ピアノによる第2のテーマ・メロディが可愛らしく奏でられるのも印象的です。

M3「Journey through our dreams」は、切なげに歌われる第1のテーマ・メロディで始まります。続いてそのメロディをメロトロンが引き継ぎ、分厚く、雄大に奏でていきます。その後はロックを感じさせる力強さを持った演奏で、スペーシーな雰囲気を持ったシンフォニック・ロックへと展開。2本のギターにキーボードもかぶせたハーモニーを聴かせたり、かすかにブルースのニュアンスを持ったギターが心震えるメロディを奏でたり。そして最後はメロトロンをバックに第1のテーマ・メロディを歌い上げます。

M4「Everything is real」では第2のテーマ・メロディがシンセサイザーで軽快に演奏されます。バックの演奏も楽しげです。そして突然、メロトロンが鳴り響き、一転してシンフォニックに。最後はオレンジ色に染まりだした夜明けの空を眺めているような、暖かな希望を感じさせる優しいメロディが余韻を残して終わります。

ここまでがLPのA面で、組曲「Four Moments」。以後はLPのB面で、別の曲になります。しかしM5「Rosanna」はM4の最後に出てきたメロディから始まります。M4は、組曲「Four Moments」のエピローグであると同時に、M5のプロローグでもあったわけですね。なかなか凝った構成です。

このM5は、最初はM4と同じ長調の暖かなメロディで始まりますが、その後、このメロディを短調へと変調し、哀愁系の曲へと変わっていきます。この印象的なメロディが何度も浮かんでは消え、澄んだ夜空のような美しくも懐かしい情景を映し出します。

そしてアルバム最後の曲「Openings」へ。最後なのに、オープニング。ここになにかの意図を感じますが、もしかしたら、たんにある種の時間あわせで収録されたのかもしれません。というのも、M1からM5まではメロディに連続性や関連性があるのに対し、この曲だけ、他の曲との関連を見つけられない、独立したものだからです。だからといって、この曲がたんなる時間合わせの内容かというとそんなことはありません。もそもそとしたテーマ・メロディには、ほのかにいなたい感じがありますが、それを奏でるギターの丸い音色に対し、キラキラと華やかなキーボードの音色がうまく対比しています。その後はエモーショナルに展開。ギターは天空へとのぼり、光り輝く星座のあいだを泳ぎまわるようです。やわらかに使われるメロトロン。どことなく東洋的な印象を漂わせるパートもあります。テーマ・メロディをはさんでさまざまな表情を見せる演奏からは、オーストラリアの広い大地と空間を感じられます。

このアルバムに収録された曲はどれも、難しいことはやっていないと思います。インストゥルメンタル・メインのシンフォニック・プログレッシヴですが、けっしてテクニカル系の演奏ではありません。そのかわり、シンプルだけど印象的なテーマ・メロディを、わずかにバリエーションを加えながら、何度も上手に曲中に浮かび上がらせ、その前後で曲の表情を変えるといった構成のうまさで、最後まで飽きさせず、聴き手の心をひきつけます。音楽でひきつけるには、優れた演奏も大切だけど、それ以上に優れたメロディと優れた構成が必要だということが、あらためて感じられます。

あたたかい南半球の大地から生まれてきたシンフォニック・ロックは、ヨーロッパのそれとは違ったおおらかさと人懐こさ、あたたかさを存分に感じさせてくれます。同じピノ・ノワールやシラーでワインをつくっても、繊細さや生真面目な力強さを感じさせるフランスワインに対し、オーストラリアのワインはおおらかで気さくな感じがします。そしてSebastian Hardieの奏でるシンフォニック・ロックにも、やはりおおらかで気さくな感じを受けるのです。

また、このアルバムから聴かれる音楽から浮かぶ情景は、夜。秋のオーストラリアで、アサートン高原からケアンズに戻る途中の山道で眺めた、満天の星空を思い出します。初めて星座が「絵」として見えたあの日。天の川が本当に「天の川」だと感じられたあの夜。このアルバムを聴いていると、あのときの情景が脳裏によみがえってくるのです。

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