ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA / A NEW WORLD RECORD
自分はイタリアン・ポップスのファンで、プログレッシヴ・ロックのファンでもあるのですが、イタリアンだから好きとかプログレッシヴだからいいとかいうのではありません。単純に「ヨーロッパを感じさせる、クラシカルなテイストを持っていたりする、美しいメロディのポピュラー音楽が好き」なだけで、そういうのを探し求めていたら、イタリアンとプログレッシヴにそういったようそのものが多いようだということに気づいたわけです。要は「確率の問題」です。なので、イタリアンでなければ、プログレッシヴでなければ、といったこだわりは、実はあんまりありません。
Electric Light Orchestra(エレクトリック・ライト・オーケストラ。ELO)は、こうした自分の好みにぴったりあてはまるグループのひとつ。最高のメロディ・メイカーのひとりといえるJeff Lynne(ジェフ・リン)のつむぎだす、美しく、あたたかく、なめらかで、ポップなセンスにあふれた曲に、ストリングスが華やかさを加味する。導入されるオーケストラは、ときにクラシカルでときにドラマティックなのだけれど、壮大だったり深刻になったりすることはなく、やさしく、ロマンティックに、曲を彩る。イギリスのグループだからか、やさしくロマンティックなアレンジがされていても、アメリカのように、それが甘くなりすぎたり、いかにもとってつけたような大仰な感じになったり、といったふうにならないところも好ましいです。
この『A New World Record』は、自分にとって初めて聴いたELOのアルバムです。高校生のころ、レンタル・レコード店で借りたのだったな。M1「Tightrope」のイントロでオーケストラとコーラスが聴こえてきた時点でもう、すっかり気に入ってしまっていた自分がいました。このまま壮大なシンフォニーが始まるのかと思いきや、歌に入ると軽快なロックンロールという構成がおもしろく、しかも、シンフォニーとロックンロールという異質なパートが無理なくつながっていることに、単純に「すごい!」と思った記憶があります。シンフォニーとロックの組み合わせというのは、すでにいくつかありましたが、たとえば年代が古いとはいえDeep Purple(ディープ・パープル)の『Concerto For Group And Orchestra』なんかは明らかにロック・パートとオーケストラ・パートがちぐはぐでしたからね。
アルバムからはM2「Telephone Line」がシングル・ヒットしたのでしたっけ。ラジオで頻繁にかかっていた気がします。アルバムがリリースされた当時は自分はまだ小学生なのでリアルタイムではないのですが、ラジオのFEN(いまはAFNとかいうんでしたっけ?)やFMの洋楽番組などで「なつかしのヒット曲」といった感じでかかっていたのでしょう。
このM2やM4「Mission (A World Record)」といったバラード系の曲は、綺麗で素直なメロディに華麗なストリングス・セクションが有効に利いていて、時代を超えた普遍的なよさを感じます。M4はロマンティックでやわらかい曲ですが、感想のところで聴こえるエレクトリック・ピアノはちょっとジャジーで気持ちいいです。
またM5「So Fine」やM6「Livin' Thing」、M7「Above The Clouds」は軽快なポップスですが、最初から最後までポップというわけではなく、イントロが少しいなたかったりジャズっぽかったりするけれど曲が進むにつれてポップになっていくなどといった、ちょっとしたひねりが加えられているのが、やはりイギリスという感じ。こういうところも魅力です。
一方、M3「Rockaria」、M8「Do Ya」はM1にも共通するようなロックンロールで、軽快で、普通に演奏すればちょっといなたい感じになるだろうところに華やかなストリングスが入り、ELOならではの独特な世界をつくりあげます。ディストーションのかかったエレキ・ギターがいい音を出しているM8はTodd Rundgren's Utopia(トッド・ラングレンズ・ユートピア)の『Another Live』でも演奏されていますが、最後まで軽快なロックンロールだったUtopiaに対し、ELOは単純なロックンロールで終わらせるはずもなく、最後にはオーケストラが入りシンフォニックになります。
そして、このシンフォニックな余韻から引き続くかのごとく、アルバム最後のM9「Shangri-La」が始まります。この曲、個人的にこのアルバムのなかでいちばん気に入っています。おだやかで、やさしく、美しく、ちょっと寂しげなメロディ。歌詞カードには書いていない、アウトロにのって歌われる「Where is my Shangri-La」という言葉が切ない。そして、いったん曲が終わったあとに、アルバム全体に幕を引くかのようにフェイド・インしてくるストリングスのアルペジオと少しオペラ風のヴォーカル。これがアルバムのなかで初めて「シリアス」な感じを伴っていて、先の言葉にドラマティックな奥行きを与えます。
ELOのアルバムはけっこうたくさん持っているのだけど、初めて聴いた作品ということもあってか、自分はこのアルバムがいちばん好きかもしれません。ポップな要素と華麗なストリングスのバランスが非常によく、アルバムの構成としても起伏があり、しかもアルバムの流れにドラマを感じさせる。そして、全体で38分程度とコンパクトにまとめられているのも、かえって余韻を感じさせ、非常に好ましいです。
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