PREMIATA FORNERIA MARCONI / DRACULA - OPERA ROCK
自分はMauro Pagani(マウロ・パガーニ)が抜けたあとのPremiata Forneria Marconi(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ。PFM)のアルバムをほとんど聴いたことがなくて、そのせいもあるのかもしれませんが、このアルバム、PFMだと知らずに聴いたなら、きっとPFMのアルバムとは気づかなっただろうなと思います。
タイトルどおり、吸血鬼ドラキュラをテーマにしたロック・オペラのサウンドトラックです。歌詞はVincenzo Incenzo(ヴィンチェンツォ・インチェンツォ)という人が書いていますが、曲はPFMによるもの。しかしここに、自分の知っている「PFMの音」はほとんど出てきません。
個人的な印象として、PFMの音楽って、どちらかというと軽やかで、華麗で、たとえ哀愁系の曲をやったとしてもどこかに太陽の光を反射するキラキラとした海の輝きが垣間見え、テクニカルであってもあたたかみのある演奏をする、と感じているのですが、このアルバムには、そういった要素がほとんど感じられません。M5「Il castello dei perche'」の中間部でいくらか聴かれるくらいでしょうか。
まぁ、テーマがドラキュラですからね。ドラキュラ(のモデルとなったブラド・ツェペシ伯爵)といえば東欧ルーマニアはトランシルヴァニア地方の出身です。そんなこともあってか、PFMなのにすごく音が重い。そして、暗い。こういった重厚な感じのする音楽はいかにもユーロ・ロック的ではありますが、PFMからこういう音が出てくるとは、自分は想像してませんでした。しかし、M3「Non e' un incubo e' rearta'」で聞こえるサンプリングのフルートは、しょぼいな。
そのうえ、この作品はロック・オペラです。PFM単体の作品とは違います。舞台用音楽らしく、ドラマティックでスリリングなオーケストラがふんだんに導入され、音楽に厚みと物語性をたっぷりと加えています。さらには混声合唱まで入ります。こういった厚みも、自分の持っているPFMの印象とずいぶん違います。PFMで混声合唱といえば「The mountain」という曲もむか~しにありましたが、あんなふうなとってつけたような混声合唱ではなく、この作品中ではもっとスムースに取り入れられています。
そんなわけで、実はあんまりPFMの音楽に興味がない自分ですが、このアルバムはなかなか聴きどころが多いというか、けっこう自分の好みにあった内容になっています。
ただ、毎度のこと?なのですが、これだけ厚みと密度のある演奏だし音楽なのに、ヴォーカルがパワー不足なのですよ。これについては自分がPFMに対して持っている印象そのままです。
曲ごと(役ごと?)にメンバーが交代で歌っているようで、それぞれの歌声はそれなりに個性もあるし味わいもあるとは思うのだけど、しかもPFMにはめずらしいメンバーによるコーラス・ワークもあったりするのだけど、なんといってもこれは壮大なロック・オペラです。ここはもっと声量のあるヴォーカルで、力強く伸びやかな歌声を聴きたかった。せっかく演奏で重厚なドラキュラの世界をつくりあげているのに、ヴォーカルがその重厚さを薄めてしまっているように感じるのです。
これがドラキュラではなく、ロック・オペラでもなく、PFM単体のオリジナル・アルバムであれば、このヴォーカルでも充分なのでしょうが。M11「Un destino di rondine」にゲスト・ヴォーカルとして参加しているカンタウトリーチェ、Dolcenera(ドルチェネラ)が力強いヴォーカルがヨーロッパの陰鬱な世界観にぴったりとあっている分、余計に本編でのヴォーカルの甘さが残念に感じられます。
というわけで、ヴォーカル面での物足りなさはいくらか残りますが、アルバム全体としてはいかにもユーロ・ロック的な、ヨーロッパ的な影と哀しみと重さに満ちた、なかなかの作品だと思います。これがPFMファンにどう受けとめられるのかはわかりませんが。ちなみに自分は、このアルバムを聴いて、PFMやその他のユーロ・ロック・グループよりも先に、Cirque du Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)のアルバム『Alegria』を思い出しました。古いヨーロッパのひなびた街角を思い起こさせるところなど、ちょっと通じる部分があるのではないかしら。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- 「every little music in my life」最近の更新(2023.08.06)
- Matia Bazar / The Best Of (2022)(2022.11.27)
- Umberto Tozzi / Io Camminero(2022.07.24)
- Spectrum / Spectrum 6; SPECTRUM FINAL Budoukan Live Sept. 22,1981 (1981)(2022.05.22)
- RockFour / One Fantastic Day (2001)(2022.05.22)
「ジャンル:ロック」カテゴリの記事
- Zoran / Opera Universe (2019)(2021.03.20)
- Pinnacle Point / Hero(2020.09.22)
- Dennis DeYoung / And The Music of Styx - Live in Los Angels (2014)(2020.02.02)
- Edenbridge / The Bonding (2013)(2017.12.09)
- Obscured by Clouds / Thermospheric (2017)(2017.11.14)
「ジャンル:プログレッシヴ」カテゴリの記事
- Pinnacle Point / Hero(2020.09.22)
- The Samurai of Prog / Secrets of Disguise (2013)(2018.09.04)
- Obscured by Pink / Confessions (2009)(2017.11.29)
- Yes / Symphonic Live (2003)(2017.11.23)
- Various Artists / Progfest '97 (1997)(2017.10.29)
コメント
ご無沙汰しています。
PFM好きとしてはすぐにでも聴くべきなのでしょうがまだ聴いていません。まわりのプログレ者の評価は概ね高く、2005年のプログレベストに挙げている人も居ますね。このエントリーを読んでさらに期待が膨らみました。
5月は再来日公演に行きます。プロモーター側によると2002年の公演が好評だったので今回も昔の曲を中心にしたセットになるようですが、個人的には今のPFMを聴きたいですね。この作品の曲はやらないかな?
投稿: francofrehley | 2006/01/26 13:52
めっちゃドラマティックなシンフォ・プログレ作品だと思います。あいかわらず演奏めちゃうまだし。ぜひぜひお聞きになってくださいね。
5月のライブは、自分は行かないなぁ、きっと。その前のNew Trollsでけっこうな出費だし(笑)。PFMは、そんなに好きというわけじゃないし、どうせ聞くのならいまの曲で、なんだったら「Dracula全曲演奏」でもよいのだけど、そういうのを見たいです。
New Trollsも、できればConcerto Grossoよりも最近の曲中心で見たいのだけど、それじゃお客が入らないのでしょうね。とはいえConcerto Grossoなんて両方合わせても30分程度ですから、残りのステージ時間はきっとそれ以外の、おそらくアルデバラン以降のポップ期の曲をやってくれるのではないかという期待を込めて見に行きます。
投稿: もあ | 2006/01/26 14:43
New Trollsも行きます。もあさんと同様最近の曲がより聴きたいです。
私は土曜日に行きます。会場でお会いできるといいですね。
投稿: francofrehley | 2006/01/26 16:06