これでもうウサギのせわをさせてくれないだろうな
ここ最近の通勤電車のお供となっている『Of Mice and Men (二十日鼠と人間)』のペーパーバックも、いよいよ佳境に入ってきました。おそらく強い農夫なまりだろうと思われる、見たこともない単語や表現に苦戦しながらの読書ですが、日本語版の文庫を何度か読んでおおよその話は知っているので、なんとか読みすすめられています。
純真でいいやつなのだけど頭が弱く怪力の大男Lennieと、彼と一緒にいくつもの農園を渡り歩いている賢い小男のGeorge。友情と愛情とある種の自分勝手な感情で結ばれた二人の流れ農夫?が主人公のお話なのですが、深く静かに哀しい物語なのです。
いま、農場の農夫仲間からもらいかわいがっていた子犬をLennieが誤って殺してしまうシーンです。頭が弱くて怪力ゆえに、ちょっとした力加減の間違いで子犬は死んでしまいました。動物のやわらかい毛皮やふんわりあたたかい生地などが大好きなLennie。悪気はないんです。
いつか一緒に小さな農場を持ち、そこで野菜をつくり、家畜を飼おう。そのときはLennieにウサギの世話をまかせるよ。これが彼らの夢です。でもLennieは子犬を死なせてしまいました。まもなくGeorgeはそのことを知るでしょう。そうしたらもう、Georgeは自分にウサギの世話をさせてくれないだろう。Lennieは哀しんでいます。そこに、トラブルメーカーである農場主の息子の嫁がやってくるところまで、読み進みました。
お話の冒頭では、Lennieがポケットに隠し持っていたねずみの死骸をGeorgeがとりあげるという場面があります。Lennieはただ、ねずみのやわらかい毛皮を指先に感じていたかっただけなんです。毛皮の手触りで安心していたかっただけなんです。
同じ農場で働く年老いた農夫のCandyは、老犬を飼っていました。しかしその犬はあまりに年老い、目も見えず、耳もあまり聞こえず、足はリュウマチにかかり、体からは悪臭がします。それでもCandyは、長年連れ添ったその犬が大好きで、彼にとっては大切な友人でした。
しかし他の農夫は、その犬が農夫小屋に入ってくると臭い、もう目も見えず耳も聞こえず歩けば体に痛みが走り、その犬にとって、これ以上生きていていいことなんてなにもない。だから楽にしてやれと、犬を撃ち殺すのです。犬が痛みを感じないよう、自分が撃ち殺されたことすら気づかないよう、後頭部を一撃。
Candyは、犬を殺すという他の農夫の考えに強く抵抗しますが、だれからの共感・同情も得られず、ついには農夫たちの決定を受け入れます。そして農夫のひとりが犬を外へ連れ出し、撃ち殺します。そのあとでCandyはGeorgeにいいます。
「あいつに撃ち殺させるんじゃなかった。殺すときは、じぶんがころしてやればよかった」
こういった、いくつかの場面が、クライマックスへの複線となっています。これから死んだ子犬のそばでなにが起きるか、LennieとGeorgeがどういう状況になり、どういう行動をするか、小さな農場を持つという彼らの夢はどうなるのか。全部知ってます。知ってるけど、読むたびに心にしみこむ。
日本語のタイトルは『二十日鼠と人間』ですが、原題は『Of Mice and Men』。この「Of」はなにを意味するのだろう。「Of」の前にはどんな言葉が入るのだろう。それを考えても、また哀しくやりきれない気持ちになります。なのに、決して暗くて重い話ではなく、どこか淡々としたさわやかさ(といってはいかんな)がある。どろどろ・べたべたとしない。こういう感覚って、アメリカ文学の持ち味でしょうか。『白い犬とワルツを (To Dance with A White Dog)』なども、哀しいけれどさわやかさがある。こういう話っていいな。本を読んだ、という気持ちになる。
ちなみに『Of Mice and Men』は映画化されたことがあって、前にテレビで見たことがあるのだけど、Lennieをジョン・マルコヴィッチが、Georgeをゲイリー・シニーズが演じました。この映画もすごくよかった。思いっきりなまった発音で「George」と呼びかけるLennieの声が忘れられません。
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コメント
5・4・3・ニンジャー!!\(^o^)/
あ、すみません。激しく気に入ったので関係ないところで使ってしまいました。
私、この本を読んだことはないのですが、ゲイリー・シニーズに反応してしまいました。悪役とか犯人役やってるのが好きです。
投稿: あんき〜お | 2005/04/15 00:54
忍者の掛け声、気に入ってくれてよかったです。きっと赤坂「NINJA」で働く虎眼丸をはじめとした忍者たちも喜んでくれることでしょう。
ちなみに虎眼丸は小さな劇団?の舞台照明や音響のお仕事をしてたり、舞台用の音楽をつくったりもしてて、さらに今年の秋には舞台で役者デビューもするらしい。忍者もいろいろ大変です。
『二十日鼠と人間』はとってもいいお話なので、機会があったらぜひ読んでみてくださいね。文庫で出てますから。著者はスタインベックですから。
映画はDVDになっているようです。もともとゲイリー・シニーズが主宰していた劇団で、舞台でもやっていたらしい。ジョン・マルコヴィッチはそのときの劇団員で、一緒にこの芝居をしてたらしい。だから映画でもあんなにめちゃめちゃはまってるんだろうな。映画版では、ゲイリーもとてもいい演技だったのですが、ジョンの芝居はさらにさらに素晴らしかったです。こちらも機会があればぜひご覧になってくださいね。自分もDVD買おうかなぁ。
投稿: もあ | 2005/04/15 09:03
もあさん、こんにちは。本日は"代休”のあんき〜おです。
昨晩、『ハツカネズミと人間』(新潮文庫)を読み終えました。5月初めくらいに、近所の古本屋で見つけて購入したものです。
最後はどうなるんだろうと、どきどきしながら読みました。最後は、哀しくてさみしい気持ちに包まれてしまいました。ジョージはその後、どういう風に暮らしていくんだろうかと考えました。映画も観てみたいです。
長くなってすみませんが、新潮文庫の訳者(大浦暁生氏)あとがきによると、原題は「ハツカネズミに」というスコットランドのロバート・バーンズという方の詩の中からとられているそうです。(以下は新潮文庫より引用しました)
ハツカネズミと人間の このうえもなき企ても
やがてのにちは 狂いゆき
あとに残るはただ単に 悲しみそして苦しみで
約束のよろこび 消えはてぬ
だからofの前は「このうえもなき企て」のようです。この詩、物語を読んだあとに読むと何とも言えません。
良い本をご紹介くださいまして、有り難うございました。
投稿: あんき〜お | 2005/05/23 10:58
暗記~お産、ちがう、あんき~おさん、こんにちは。今日は代休ですか。ゆっくり休んでくださいね。
『二十日鼠と人間』、すごくしみる話でしょう。あの舞台になっているサリーナスというところは数年前、モントレーに旅行したときに路線バスが立ち寄ったのでチラッとみたのですが、な~んにもない田舎町で、むかしのアメリカ映画に出てきそうな小さな駅と小さなお店があるだけでした。あぁ、こんな町でレニーとジョージは... なんて考えて、もの悲しくなってしまった記憶があります。
詩の引用、ありがとうございます。そうか、そういう詩なのか。
ちなみにgooの英和辞書で調べると、「mouse and man」で「生きとし生けるもの」という意味があるらしいです。そういうふうに読み替えてこの詩を読むと、さらにいっそうもの悲しくなってしまいますね...
約束のよろこび 消えはてぬ
うぅ...
投稿: もあ | 2005/05/23 11:47