« SIMONE / GIORNI | トップページ | 道成寺と悪魔の唄 »

2005/02/21

オペラ座の怪人

ミュージカル映画『オペラ座の怪人』を観てきました。

劇場で観た予告編がよかったので、けっこう期待していきました。ミュージカル『オペラ座の怪人』は、ケン・ヒル版は観たことがあるのですが、あまりおもしろくなく、劇団四季が採用しているアンドリュー・ロイド・ウェーバー版を観てみたいと思っていたし、今回の映画はウェーバー版の完全映画化だということもあったので、楽しみにしてたんです。

観終わった感想。う~ん、思ったほどじゃないな。悪くはないけど。

『オペラ座の怪人』自体は原作の文庫本を読んだこともあるのですが、じつはあまり細かいところまでは覚えていません。でも、より原作に忠実なのはケン・ヒル版ミュージカルでしょう。ウェーバー版は、けっこうアレンジが加えられていた感じです。

しかし自分にとっての『オペラ座の怪人』は、おそらく10年以上も前にNHKで放送された、イギリスかアメリカで制作された3時間程度のドラマのイメージなのです。このドラマでは、原作のイメージをきちんと残して、かつシンプルに(原作はけっこう長くて途中かったるかったりするのです。そういうところがフランス的?)、しかしポイントははずさないというつくりになっていました。

今回の映画(少し前に来日公演があったケン・ヒル版ミュージカルもそうでしたが)のもっとも弱いところは、ファントムの歌がうまくない、という点だと自分は思います。だってファントムは「音楽の天使」なんですよ。なのに、あの発声、あの歌い方はいかんだろ。

べつにこれがロック・ミュージカルだとかロック・オペラだとかだったらかまいません。たしかに『オペラ座の怪人』という作品自体はロックというかポップ・オペラなので、そういう意味ではこの歌い方でもかまわないといえばかまいません。

でも、舞台となっているのはパリのオペラ座ですよ。登場人物はオペラ座関係者ですよ。そしてファントムを慕うクリスティーヌはソプラノ歌手で、クリスティーヌに歌のレッスンをしたのがファントムなんですよ。なのにあのファントムの歌唱。ありえない。

ラウル・シャニイ伯爵の歌がポップス歌唱なのはぜんぜんかまいません。彼は「素人」さんですから。しかしクリスティーヌとファントムには、オペラ座で働く人間を、オペラ座にオペラを観にくる観客たちを、心の底からとらえて離さないような圧倒的な歌唱力と声が必要なはずなのです。

ファントムが、本当に「音楽の天使」と思えるほどに素晴らしい歌声を持っていなければ、この話は成立しないはずなんです。

この映画を観て、ラウルとファントムのあいだで揺れ動くクリスティーヌの心を「移り気」とか「浮気性」のように感じた人が多くいたようです。そう思われて当然。それを「字幕(翻訳)のひどさゆえ」と指摘している人も少なくありませんが、それ以前に「ファントムの歌の下手さゆえ」のほうが大きいでしょう。

クリスティーヌのなかにある「ラウルに対する愛」と「ファントムに対する愛」は、まったく別のものです。幼馴染でもあるラウルに対する愛は、いわゆる「恋愛感情」です。しかし、ファントムに対する愛は、音楽という芸術への渇望であり、音楽家・芸術家としての自分をより高みに導いてくれる、あるいは自分が愛する「音楽という芸術」の素晴らしさを理解してくれ、一緒に愛してくれ、さらに高い時限の素晴らしさを見つけ、教えてくれる、まさに「音楽の天使」への愛情であり、非常にスピリチュアルなものです。プラス、そこに亡くなった父親(やはり音楽家)への想いも重なるのですが、このふたりをつなぐのはあくまでも「音楽」なんです。しかし、ファントムの側がそこに「音楽以外のもの」を見出し、求めてしまったところにファントムの哀しみがあるわけです。

ところが、この映画のファントムは、セクシーで魅力的な男性ではあるけれど、「音楽の天使」には程遠い。「音楽の天使」を名乗るなら、フランコ・コレッリくらい素晴らしい歌声を聞かせてくれ、せめてアンドレア・ボチェッリくらいの歌は聞かせてくれよ。そこがあまりにも弱いので、クリスティーヌとファントムをつなぐはずの「音楽」が観客に理解できず、結果としてラウルとファントムがほとんど同格・同種類の「恋の相手」に見えてしまうところが非常に残念。

ついでにいってしまうと、映画内(ということは、ミュージカル内)で使われている音楽自体も、それほど魅力的には感じられませんでした。有名な「ファントムのテーマ(?)」はインパクトがあるけれど、それ以外は思ったよりフレーズにバリエーションがないのね。ミュージカル『Cats』もウェーバー作だったような気がしますが、あれもおんなじフレーズばかりで観てて飽きた記憶があります。もちろん、同じフレーズを何度も使うことでよりそのフレーズの印象が強まるということはあります。それぞれのフレーズにはそのフレーズが表わす登場人物や感情が割り振られていたりするので、ある種のナレーション/字幕スーパー的な意味合いで同フレーズを多用しているということはあるのでしょう。でも、飽きるものは飽きる。

自分が以前に見たテレビドラマ版の『オペラ座の怪人』では、音楽はオペラそのものを使っていました。それぞれの主要なシーンでオペラからのアリアを用い、それまでオペラを聴いたことのなかった自分にはそれがとても印象的かつ魅力的でした。主に「ファウスト」からの曲を使っていましたが、これで自分は「ファウスト」のCDを買ってしまいましたから。いまでもドラマのクライマックスで使われたパートを聴くと、ちょっと泣きそうになります。オペラという「音楽」で引かれあうクリスティーヌとファントムのある種の絆が強く感じられ、しかしその絆を自分で壊してしまうファントムの弱さと哀しみが胸にしみます。

そういった部分が、この映画ではぜんぜん伝わってこなかった。そのため、ただのラヴ・ストーリーになっちゃったなと思います。

とはいえ、セットは豪華だし、よくつくってあるとはいえるでしょう。音響面も含めて、観るのであれば劇場で。人間描写が浅いので、DVDではいっそうのスケールダウンはまぬがれないだろうな。

|

« SIMONE / GIORNI | トップページ | 道成寺と悪魔の唄 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

はじめまして!TBいただきました。
感想を読んで、とっても納得&共感しました。

>人間描写が浅い
ほんとその一言です。感情移入もできないし、困りました(笑)
クリスティーヌの2人への愛の違い、私もそこまで感じ取ることができれば、
また違ったかもしれませんね。

投稿: ムー | 2005/03/06 01:30

ファントムの歌のひどさについてですが、あれはもとの発声法と、アメリカの(あるいは西洋の)お化けや化け物に対する考え方に原因がある気がします。舞台のCDを聞き比べるとわかるんですが日本は一応オペラ(のような)歌唱法による歌い方をしていますが、ブロードウェイ盤はロック歌手のような歌い方をしています。ここに違和感を感じますが、それはあくまで「日本では」ということのようです。海の向こうでは化け物=ロックスターの顔みたいなイメージがあるのではないでしょうか。他の化け物やお化けが出るようなミュージカル(ウィーンのものですが「エリザベート」とかも)でもそのような傾向がありました。そこらへんがキャスト選びに影響している気がします。とはいえ自分たちにはひどく感じるのはたしかなんですが(笑)

投稿: みたらし | 2005/08/26 00:14

"NHK"、"オペラ座の怪人"で検索、ヒットして以来、拝見させていただいています。私も、オペラ座の怪人はNHKのドラマのイメージが強く、映画を見て「こんなのオペラ座の怪人じゃない」などと思っていました。ビデオも劣化が怖くてときどきしか見れなかったのですが、なんと!あのドラマ版をスカパーで放送していました!12月16日まで162チャンネルで放送中です!あまりの嬉しさに、ドラマ版のファンの方とぜひ喜びを分かち合いたくコメントさせていただきました。

投稿: ぽけ | 2005/12/12 23:13

NHKで放送されたやつ、本当によかったですよね。自分は放送時にモノラルのVHSデッキで取ったビデオをDVD-Rにコピーしたものをとってあります。画面ざらざらでけっこうきついのですが、観ているうちに話に引き込まれていってだんだん気にならなくなってくるところが素敵です。スカパーとかは、うちは観られないのが残念。NHK-BSで再放送してくれないかなぁ。

投稿: もあ | 2005/12/15 11:00

小生もA.L.ウェバーのミュージカル(プッチーニのオペラ「西部の娘」の"盗作"メロディあり)より、1990年TV版が好きです。

今も以下で1990年TV版を売ってますよ。
http://www.amazon.com/Phantom-Opera-Mini-All-Regions/dp/B000AIR1CC/ref=sr_1_3?ie=UTF8&s=dvd&qid=1276489440&sr=8-3
ただし、編集した短くしたNHK版に比べると、上記のオリジナル版はやや冗長な部分もあります。

投稿: Utah | 2010/06/14 13:26

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: オペラ座の怪人:

» 『オペラ座の怪人』 [: Keep a movie's diary under...]
『オペラ座の怪人』 ★★ 『THE PHANTOM OF THE OPERA』 コピー 「あなたの声で私の花が開きはじめる。」 基本的にミュージカル映... [続きを読む]

受信: 2005/03/06 01:22

» 絶え間ないファンファーレが眠りを誘う [soramove]
「オペラ座の怪人」★★★☆ エミー・ロッサム、ジェラルド・パトラー出演 ミュージカルには基本的に 押さえておかないと いけない部分がある。 普通の... [続きを読む]

受信: 2005/03/08 08:57

« SIMONE / GIORNI | トップページ | 道成寺と悪魔の唄 »