ドン・キホーテ
あ、最近あっちこっちで火をつけられて話題になった?お店のことじゃありません。スペインの古典、ラ・マンチャの男、風車に戦いを挑んだことで知られる、ドン・キホーテ・ド・ラ・マンチャのことです。
自分ね、このお話、読んだことがないんですよ。ドン・キホーテという名前は知ってるし、ロバに乗ったサンチョ・パンサという従者と一緒に旅に出て、風車を巨人だと思いこんで戦いを挑む、っていうシーンはね、たぶん絵画で見たかなにかで知ってる。そこから導き出されるこの物語は、いわば頭のおかしなジィさんの話、かなと思ってたんです。
「この映画はスバラシイ!」の1月13日の書き込みに、「名前に“ドン”が付く人は、素性のわからない人が多い」とありました。そんな「素性のわからん人」のなかにドン・キホーテもあげられていた。
そう。たしかに素性がわからないんですよね。いったい何者なんだ、ドン・キホーテ。やっぱりあたまのおかしなジィさんなのか、それともミュンヒハウゼン男爵(『ほら男爵の冒険』の主人公。映画『バロン』の原作?ですね。子供のころに読んですごくおもしろかった記憶がある)のような、空想癖のある愛すべきじいちゃんなのか。
そしたら先月だったか、NHK-BSで、アメリカで制作されたテレビ用映画(なのかな?)『ドン・キホーテ』が放送されたんですよ。
ドン・キホーテって、こんなお話だったんだ。最初はある種の老人性痴呆というか、いわゆる「ジィちゃん、ぼけちゃったのね」ってなことを思いながら見てたんだけど、また実際、ちょっとぼけちゃってるともいえるんだけど、そんなジィちゃんを見て笑うって話じゃないぞ、これ。
騎士の時代、騎士の活躍が書かれた書物が大好きで、騎士の時代、騎士の世界へずっと憧れていた男性が、歳をとり、ある日突然、自分は騎士だ、と思いこむ。名前もドン・キホーテ・ド・ラ・マンチャと変え、従者を連れて、騎士としての名誉と誇りを求めて旅に出るんです。
でも、世界にはとっくのむかしに騎士道なんてなくなってた。騎士が重んじた名誉も品性も勇気も他者への尊敬も、いまの地では馬鹿にされ、軽んじられ、からかわれる対象でしかない。でもドン・キホーテは、それに気づかない。馬鹿にされているのに、からかわれているのに、毅然と「騎士としての立ち居振る舞い」を貫く。そこにコミカルなおかしさを見る?
ドン・キホーテのやっていること、考えていることって、本当に馬鹿にされ、からかわれ、軽んじられるべきものだろうか。純朴だけど考えの足りないサンチョ・パンサを馬鹿にすることが、本当に必要なことだろうか。
謎の騎士に扮した学者との馬上試合に負け、誇り高きラ・マンチャの騎士ドン・キホーテは旅をやめ、家に帰ります。家族から「ジィちゃんを正気に戻してくれ」と頼まれた学者は、みごとにその役を果たしたのです。
そして、家に戻ったドン・キホーテは、すべてが夢であったこと、自分が正気を失い、本のなかの世界と現実がごちゃ混ぜになっていたことを認識します。そして家族の願いどおり正気に戻り、もう騎士の時代は終わった、もう騎士はいない、騎士のいるべき場所・いられる場所はない、ということを認めます。
そして、息を引き取ります。
最後は自分、泣きそうでした。夢をなくしては、生きていくことができない。誇り、品性、尊敬が重んじられない世界では、生きていくことができない。そんなドン・キホーテを、笑うことなんてできない。
世界でもっとも売れている本は『聖書』だそうですが、2番目に売れているのは、実は『ドン・キホーテ』なのだそうです。古典として読み継がれているものには、それだけの理由(深み)があるんですね。近いうちにちゃんと本で読もう。
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