UMBERTO BALSAMO / MAI PIU'
自分はイタリアン・ポップスが好きなんですが、「イタリアン・ポップスってどんな感じなの? アメリカやイギリスのポップスとはどこが違うの?」ときかれると、けっこう困ってしまいます。歌詞がイタリア語!という以外に、じつはこれといって大きな特徴がないんですよね。頻繁に聴く機会がある英米のポップスと比較して、おしゃれ感の強いフランス、強烈なラテンを感じさせるスペイン、ちょっと硬質でデジタリックなイメージがある?ドイツ……といった、簡単でわかりやすい形容がしにくいところが、日本でイタリアン・ポップスが普及しない大きな理由のひとつだ、というようなことを誰かがどこかで書いてましたが、そうかもしれません。とくに最近の若いシンガーたちの曲は、ほとんど英米と変わらない。ちょっと垢抜けないところはあるけれど、歌詞がイタリア語じゃなかったらイタリアの曲だとわからない。そういうものが増えているように思います。
そんななかで、自分が「あぁ、イタリアらしいなぁ」と思うのは、やはりメロディやフレーズに対してなんですよね。イタリアのポピュラー・ミュージックの特徴のひとつは、美しく情感に満ちたメロディがふんだんにあること。主旋律はもちろん、バックのオーケストレーションなどにも美旋律があふれている。そうしたメロディの重なり・連なりでつづられる曲に、イタリアを感じることが多いんです。さらに、多少強引とも思えるドラマティックな展開が入れば完璧。少し前までのイタリアン・ポップスには、そういう曲がたくさんありました。そういう曲に魅了されて、イタリアン・ポップスの道に入ったんだよなぁ、自分。
Umberto Balsamo(ウンベルト・バルサモ)はシチリア出身のカンタウトーレ。1942年生まれだそうですから、この『Mai piu'』は40歳のときの作品ですね。地味な作風の人ですが、Umbertoの歌にはとても「イタリア」を感じます。素直なメロディ。やさしくあたたかい歌声。甘くなりすぎない、ほどよい哀愁。派手さやドラマティックさはないけれど、こうした奇をてらわない展開・構成は、Umbertoのヴォーカル・スタイルによくあっています。
ちょっと似通った曲想が多いですが、どれも親しみやすく、懐が深く、おだやかであたたかい愛情に包まれるような、聴いていてとてもリラックスできる曲ばかり。ストリングスによるオーケストレーションもけっしてでしゃばることなく、要所で効果的に雰囲気を盛り上げます。いくつか収録されているリズミックな曲はもさっとしててもうひとつな感じですが、バラード系の曲の魅力は高いです。とくにアルバムのタイトル曲となっている「Mai piu'」などは、優れたイタリアン・ポップスの1曲だと思います。
Umberto BalsamoのアルバムはあまりCD化されておらず、この作品も日本盤LPしか見たことがありません。初期の作品はプログレ系レーベルが再発した2枚しかCDになっていないし、1990年代以降のアルバム(CD)はプレス枚数が少なかったようですでにどれも入手困難。かろうじてたまにベスト盤CDを見かけるくらい。自分も、CDになったものと、この『Mai piu'』しか持っておらず、LPしかない1970年代・1980年代のアルバムは聴いたことがありません。ベスト盤CDを聴くかぎりでは初期作品にも魅力的なものが多く、これらが現在、どれも入手困難でほとんど聴けない状況にあるのはとても残念。ぜひオリジナルなかたちでCD再発を期待したいところです。
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