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2004/08/09

映画『箪笥(たんす)』を観てきた(思いっきりネタばれ)

先日の『4人の食卓』に続き、また韓国ホラーを観てしまった。先にいってしまうと、自分にとっては『4人の食卓』のほうがおもしろかったですわ。『4人の食卓』は幼年期のトラウマ系神経衰弱サイコ・ホラーといった感じでしたが、『箪笥(たんす)』のほうは少女期の不安定セクシュアル系精神障害多重人格ホラーでした。

いきなりネタばれしちゃうと、スクリーンに映し出されているシーンの大半(90%くらい)は姉の妄想・幻想です。妹も、継母も、あの家にはいません。すべて姉が自分で演じ、自分で愛し、自分で憎んでいます。そこまで精神が崩壊する事件が、あの家であったからなんですけど、そして、それに大きくかかわっているのが箪笥なので、タイトルも『箪笥』なのでしょうけど、この危うさって、いかにも少女期って感じです。それが自分の肌感覚になじむかなじまないか、なんとなくでも受け入れられるか受け入れられないかで、この映画を楽しめるか楽しめないかが決まってきそうです。

実の母は箪笥のなかで首をつって自殺していますが、おそらくこの母も精神的にもろい人だったんだろうな。その気質が姉に遺伝しているように思います。妹のほうはそういう線の細さがなく、どちらかというと天真爛漫系の、太陽のような子だったのでしょう。だから母も、どちらかというと妹のほうが好きだったのではないでしょうか。なので、妹の部屋で死んだのではないかと思うわけです。

姉は、のちに継母になる女性と父親が愛人関係にあったと思っていて、そのために実母が自殺したと考えているようですが、そのあたりの真偽はわかりません。母は精神的な問題で突発的に自殺を図ったとも考えられます。

おそらく、この姉は、家族のなかでいちばん浮いていたはずです。この姉には、父に対する近親相姦的な愛憎を感じます。もしかして母を精神的に追い込んだのも、この姉なのかもしれません。じつは妹のことも、この姉は本当は好きじゃなかったのではないでしょうか。もちろん、のちに継母となる女性も、姉は好きではなかった。この姉にとって、父のまわりにいる女性はすべて憎むべき対象なのではなかったか。そう思うわけです。その結果、家族中から「困った娘」と見られ、浮いていたんじゃないかなぁと。

場合によっては、妹が箪笥の下で死に掛けていたことすら、姉は知っていたのではないか、知っていて、知らぬふりをしたのではないかとも思います。

映画では、のちの継母が1度、妹の部屋を確認し、事態に気づいたけれどそのまま放置して戻りかけるのだけど、やはり思い直して、おそらく救出に向かおうと仕掛けたときに、姉が部屋から出てきて、そのタイミングを失わせます。結果、のちの継母は救出に向かうことなく、妹は死んでしまうわけですが、もし姉が、のちの継母が1度妹の部屋を確認しに行ったことにきづいていたとしたら……。

その前のシーンで、のちの継母は他の親類らしき人たちと居間にいます。そして、なにか大きな音がしたから、ちょっと見てくるとその場を離れます。ということは、その場にいた他の人たちは、のちの継母が確認しにいっているはずなのに妹の事故を見逃したことの証人になるわけです。もしくは、事故に気づきながら見殺しにした、と。そんな女性、もうこの家には置いておけませんよね。これにより姉は、実母と妹とのちの継母という、父のまわりにいるじゃまな女性たちすべてを排除できると考えたのではとも思えるんです。

さらにいえば、もしかして実母は自殺ではなく、姉が殺したのかもしれない。じゃまな母を、憎たらしい妹の部屋で。だから、妄想のなかで実母の霊が襲うのは、もともとの自分である姉なのかも。

いずれにしろ、この姉は、父のまわりにいるすべての女性を憎んでいたと思います。父の正式な妻である実母に対する憎しみは、映画のなかからはうかがえませんでしたが、あれが自殺ではなく殺人だとしたら、そこに描かれていたのかも。妹へ対する憎しみは、自分が継母の人格になることで表現されています。妄想継母になり、袋詰めにした妄想妹を殴り殺すわけですから。継母に対する憎しみは、もとの自分の人格であらわにしています。そして、父に対するセクシュアルな愛情と欲望を、自分が妄想継母になることで満たそうとしている。

これらから、この映画は、映像はとても美しいのだけど、じつはエログロにまみれた怪奇少女人形のような作品だ(どんな作品だ?)と、自分には思えるのです。この点で、純粋な「哀しみ」が根底に流れていた『4人の食卓』のほうが、自分には共感も納得もしやすかったのですよ。

ひとつわからないのが、夕食に招かれる親戚(おじ・おば)です。彼らは実在だったのだろうか? それとも、彼らも姉の妄想? おばは「流しの下になにかいた」といったことをいいますが、そもそもあの家でおきる怪奇現象および霊らしきものの出現はすべて姉の妄想ですから、姉意外に見えるはずはないんです。しかし、おばは「いた」といっている。妄想が実態として現われてしまっている。

そもそもあのふたりを呼んだのは誰でしたっけ? 父が電話で「呼ぼうと思っている」といっていたような気もするけれど、妄想継母が「食事に呼んだ」と宣言し姉人格が「いやだ」と応酬しているシーンもありました。とすると、このおじ・おばも妄想の一部と考えたほうが理解がしやすいな。ひきつけを起こしたおばが薬を飲まされるシーンも、妄想継母および姉本人が薬を服用しているシーンとつながるし。

ちなみに、このふたりがクルマで家を訪れる途中の道の端に、テントのようなものがあったような気がするんですが、あれはなんだろう? なんか、気になる。

しかし、幽霊の描き方はもっとなんとかならなかったんだろうか。あまりにも貞子なんですけど。いいかげん『リング』の呪縛から抜けてほしいですわ。

それと、お父さん役の役者さん、途中からどうしても大杉漣さんに見えてしょうがなくなっちゃった。そのうえ、継母役の人は秋本奈緒美さんに見えちゃうし。2時間ドラマかよって感じでしたわ。でも、ふたりとも芝居はうまい。とくに継母役の人、すごいぞ。秋本奈緒美レベルの芝居じゃありませんでしたよん。

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コメント

はじめまして。こんにちや。ぐみやんと申します。
トラックバックありがとうございます...て云うものなんだろうか?よくわかりません。
「4人の食卓」観たいねえ、て思いながら結局観なかったのです。観ときゃよかったな、て思いました。
もあさんも書いてらっしゃるとおり、箪笥、なんかおかしげなところがあるみたい。で、ノヴェライズしたのが出てるらしいので、読んでみようかな?とちょっと思いましたが、まあいいか、て思って読んでません。
おじ・おばは実在したと思います。すべてが妄想だったとしても、あの家になんかしら霊がいてもおかしくはなくて、霊感の強いおばがそれを「『見た』と感じた」という設定なんではないでしょうか?て思いました。
ところで、あの映画の設定によれば、毎度の食事はいつもお父さんが作っていて、その後片付けもお父さんがやってたわけですよね?でも、そうは感じられない。そこんとこ、ずるいなー、て思ったんですが、そうでもない?お父さんは消耗するわけですよ、て思いました。

投稿: ぐみやん | 2004/08/10 23:07

見てもいないけどコメントします(いいかしら?)。

見る予定が無いので、じっくりネタバレを読ませていただきました。つまりこの映画は姉と父しかいない、という事なのですか? 邪魔者がいなくなれば愛する父と二人で幸せなような気がするのですが。
精神障害多重人格者の心の内を映像化したと思っておけば良いのでしょうか。もあさんの解説面白かったですよ、興味深く読ませていただきました。

投稿: hello nico | 2004/08/11 00:54

コメントありがとうございます。この映画についての自分の解釈は、かなり強引だと思います(苦笑)。オフィシャルサイトのBBSをチラ見したのですが、この映画の背景その他がより深く書かれているという小説版によると、基本的にこれは「ゴーストストーリー」のようです。しかも、箪笥の下で見殺しにされた妹が恨みをはらすために幽霊として実体化し、姉の体に入り込み、継母も死の世界へと引きずり込むという『呪怨』系らしい。

……そんなん、つまらんがな。

なので、自分は小説版は読まず、あえて「すべて精神障害・脳障害等による姉の妄想・幻想、その下には父への禁じられた肉欲あり」映画だと思い込むことにします(笑)。だってさ、幽霊とか出しちゃうと、なんでもそれのせいにできちゃって、おもしろくないんだもん。それに、やっぱり死んでる人より生きてる人のほうが怖いって。

ちなみに『4人の食卓』のほうは小説版読みたいなぁと思ってるんですが、あれ、文庫版ないのよねぇ。

投稿: もあ | 2004/08/11 09:08

> ……そんなん、つまらんがな。
うふふ。
ワロタです。
> やっぱり 死んでる人より生きてる人のほうが怖いって。
同感。
猛獣や疫病も怖いけど、用心できる。人は用心してもしょうがないときありますものね。不条理ての?

投稿: ぐみやん | 2004/08/12 01:01

>幽霊とか出しちゃうと、なんでもそれのせいにできちゃって、おもしろくないんだもん

同意見。
以前、たけし軍団の一人が書いた推理小説や、アニメ「シティ・ハンター」の結末がお芝居だと知って、ごまかされたみたいでイヤな気分になりました。
それと同じで幽霊が犯人だと、今までの謎解きのドキドキ感はなんだったの~と消化不良の気分になってしまいます。

単に恐ろしいシーンだけが好きな人は幽霊でもいいみたいですが、私は結末でスッキリしたいので、犯人が存在している方がいいです。でも現実だったら怖い、作り物と分かっているからこそホラー映画を見る事ができます。

投稿: hello nico | 2004/08/15 23:52

記事を読ませていただいて・・・なるほどそう推理することも出来るのかぁ・・・と感心いたしました。
私は根が単純なので、あの凝った作りになかなかついていけず、ちょっとおいてけぼり感が残ってしまいました(^o^;

投稿: chibisaru | 2005/03/08 18:41

すげー
何にも理解してないのにこんなに長々と

投稿: | 2012/05/01 17:20

ここまでゆがんだ解釈もめずらしいw

投稿: | 2014/05/20 22:43

なるほど。こういう解釈もあるのか..

-ここから最初に見た時の感想です-

姉が妹を殺すシーンが
憎しみによるものには思えなかった。

継母が妹を見殺しにするシーンで姉は
継母と口論となり結果として妹や母のことを
気にせずに外出してしまいましたね。
「一生後悔することになる」よく覚えておくのよ。
と継母が姉に言いましたが、
その言葉がのちに呪縛となり
姉自身も「妹を見殺しにしてしまった」という観念で、思い込みによるものでは?..と。
だから妹を袋に詰め殴打するシーンで継母と姉が交互に映し出され..「共犯である」という
メッセージだったのでは?と、私にはそう思えたのです。

投稿: ぽいざらす | 2016/09/12 21:11

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監督:キム・ジウン 出演者:イム・スジョン 、ムン・グニョン 、ヨム・ジョンア 、キム・ガプス 2003年 韓国 ホラー好きの私にとってはアジアンホラーは見... [続きを読む]

受信: 2005/03/08 18:41

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