THERION / SIRIUS B
傑作アルバムとなった『Secret of the Runes』に続くTheion(セリオン)のアルバムは、『Sirius B』と『Lemuria』と題されたアルバムが1パッケージに収められた2枚組というかたちになりました。で、とりあえず今日は『Sirius B』のほうを聴いての雑感を。
前作『Secret of the Runes』でオーケストラ入りドラマティック・ユーロピアン・クワイア・メタル(そんなジャンルがあるのか?)の頂点へと登りつめたTherion。その前の数作からこの方向性を模索してきたようですが、その探求が結晶となって、非常にすぐれた形で記録されたのが前作だったと思うわけです。そんな傑作のあとにリリースされるアルバムというのは、いろいろな面でプレッシャーやハンディキャップを負うわけで、その点、Therionも同じだったかなという感じです。
初期のデス・メタルから、オーケストラおよびクワイアの導入により独自のドラマティック・メタルをつくりユーロピアン・ロマンを前面に押し出してきたわけですが、前作でその頂点を極めてしまったので、次の方向としては、同じ道筋でさらに高みをめざすか、あらたな道筋を探すか、あるいは自分たちのたどってきた道筋を一歩引いて見つめなおすかといったことになるのでしょう。そしてTherionは、最後の道筋、自分たちのたどってきた道筋を客観的に見つめなおすという方法をとったような気がします。
一見すると、一歩後退に見える、ということです。『Deggial』のころに戻りつつある感じ。あいかわらずクワイアは全編で響き渡りますが、オーケストラの活躍頻度は下がり、ヘヴィ・メタルらしいバンドの演奏が力強く響いてきます。この傾向はもう1枚の『Lemuria』でさらに顕著になっているように思うのだけど、それについてはまた後日。
オーケストラとクワイア、それにヘヴィ・メタルな演奏がすぐれたバランスのうえで渾然一体となって鳥肌モノのユーロ世界を築きあげた前作とくらべると、バランス感が悪いです。ただ、それはきっと、Therionが「ヘヴィ・メタル・グループとしての自分たちのアイデンティティを再度、見つめなおそう」と考えたゆえの、重心位置の変化によるものだと思います。たんに「後退」したのではなく、さらに次へ進むために今一度、足元を固めようという意識ではないでしょうか。
そういった姿勢は好ましいですし、クワイア・メタル(というジャンルはあるのか?)の作品としても高いクオリティを持ったアルバムだと思います。思いますけど、やはり『Secret of the Runes』の衝撃が大きかった分、ちょっと落ちるかなとも思ってしまうわけです。とくに自分の場合、ヘヴィ・メタルではなくプログレッシヴ・ロック/ユーロ・ロック的なものとして前作を楽しんでしまったので、よりヘヴィ・メタル的になったこのアルバムは、ちょっと自分の守備範囲から遠ざかりつつあるわけで。
それでも、パイプ・オルガンから始まり、アコースティック・ギターのアルペジオのうえで混声合唱が厳かに響きわたるM7などは、プログレッシヴ・ファンとしての心がかなり揺さぶられました。ヘヴィ・メタル回帰の意識は散見されるものの、まだまだ侮れませんよ、Therionは。
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