美しきものの伝説
舞台作品としては有名な芝居だそうです。大正デモクラシーの時代を舞台に、思想や芸術のために魂を、命を、全人生を傾けた若者たち(=美しき者たち)を描く青春群像劇。初演が1968年で、有名な脚本なので、これまでにあまたの劇団が舞台にかけているそうですが、自分が観てきたのはA・M・D企画というセミ・プロ(アマチュア?)演劇プロデュース集団のものです。知り合いの役者さんが出てるんで。場所は赤坂のシアターVアカサカでした。
えっとですね、自分は社会科系がすごく弱いんです。地理とか歴史とかって、なんだかぜんぜんわからない。学生時代にちっとも興味を持てなくて勉強しなかったものだから、ぜんぜん知識がないのですわ。大人になってからも勉強してないし。で、このお芝居なんですが、おそらく明治から大正にかけてくらいの日本史、社会情勢や政治情勢等の知識がないと、かなり楽しむのが難しいと思います。実際、自分は観てて、よくわからんかった。ボリシェビキってなんだったっけ? むか~しに学校の教科書で見たことがある言葉な気がするんだけど。
若者による社会主義活動だとか、それに対する国の弾圧だとか、ロシア革命の影響だとか、なんだかどれもこれも「遠い世界のお話」で、それに対して自分がどういうふうに感情移入したり、反応したりすればいいのか、わからないんですよ。登場人物はみんな、その時代になにがしかの足跡を残した実在の人物なのだそうですけど、そんなこといわれても、みんな知らない人たちばっかりだもん。
それにね、いっちゃ悪いんだけど、やっぱり演技がねぇ、あまり上手ではないのよ。というか、みなさん、カツゼツが悪いですわ。とくに主役の大杉栄をやった人(劇団しゃばだば座の座長だぜ)、ほとんどなにいってるかわからん。まずいだろ、それじゃ。ちなみに、知り合いの役者さんもあまりカツゼツがよいほうではないのですが、声がいいのだわ、彼は。それに今回はあんまりセリフも多くなかったし、よかったよかった。
それはともかく、芸術座の主宰者をやった役者さん以外は、みなさん微妙なお芝居&台詞回しで、困っちゃったなぁという感じです。あ、芸術座の音楽担当(作曲家)さんをやった役者さんは、なかなかよかったな。あと、女給&女優の役で女優さんが3人出てたのですが、そのなかの一人がめっちゃかわいかった。飯島直子さんの若かったころを思い出させるような笑顔が素敵で、他の出演女優さんたちとはちょっと違ったたたずまいを持ってる。と思って調べたら、この人、レースクイーンで、グラビアアイドルで、写真集3冊にDVDも出てる人だったのね。なるほど。この娘を含め、女優さんたちはみんな、けっこうがんばってたな。もうひとりの主役である野枝さんを演じた女優さんも上手だったし。こういった小さな劇団さんは比較的どこも女優さんのほうが男優さんよりもうまい傾向がありますね。
途中で10分の休憩を挟んで、上映時間が3時間弱と長いのだけど、脚本自体は悪くないと思うんですよ。何の話だかわけわからんってところはあるけれど、それは観る側の知識・情報の不足による「入り込めなさ」が原因で、ストーリー自体は破綻がないし、密度も濃い。いかにも芸術が熱かったころの芝居らしい芝居なんでしょう。でも、その芝居のコアとなってる社会主義や無政府主義への渇望、歌舞伎とは違う新しい大衆芸術への欲求といった精神的な背景がね、いまの時代にはぜんぜんぴんとこないと思うんです。政府による言論統制とかもね。観客がみんな、そういった時代や状況についての知識や実感がある人なら、脚本だけでもなんとか舞台につなぎとめていけるかもしれないけど、そうでない自分にとっては、やはり「演技」「芝居」の部分、つまり動きや台詞回し、そして「間」のうまさといった部分でひきつけてもらわないと、コアとなる話=脚本だけでは、3時間弱はちょっときついです。
今回の出演者さんたちには申し訳ないけど、この舞台を誰かもっと演技力のある役者さんたちの配役で観ていたら、わからないなりにも、もう少し時代の空気やそこに生きる人たちの魂のようなものが伝わってきたんじゃないかなぁと、そんなふうに思うのでした。
| 固定リンク
「芝居・舞台」カテゴリの記事
- 『ポーの一族』 宝塚 花組公演(2018年)(2021.08.09)
- 地球ゴージャス / HUMANITY THE MUSICAL〜モモタロウと愉快な仲間たち〜 (2006)(2019.08.15)
- メタルマクベス disc3 (IHI STAGE AROUND TOKYO)(2018.12.24)
- 『出口なし』 (新国立劇場 小劇場)(2018.09.02)
- 酒と涙とジキルとハイド (東京芸術劇場プレイハウス)(2018.05.05)
コメント